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希望を明日からの農作業と農民連運動の力に 全国の活動や実践に確信と勇気(2025年03月03日 第1640号)

農民連 第26回定期大会での発言から

 農民連は1月15日から17日まで第26回定期大会を開き、全国の素晴らしい活動や実践に確信と勇気がわき、希望をもって明日からの農作業や農民運動の活力にしていく発言や報告が、多くの参加者からありました。大会での発言と、編集部が発言をもとにその後の実践の発展や新たな思いを踏まえたものに編集した記事を紹介します。


中山間地守って奮闘中 一致点で農民連大きく 新潟 相澤 堅さん(十日町市)

 2025年から5年間の第6期中山間地直接支払いの申請で作成した集落戦略や地域計画では、私の住んでいる地区の耕作地が2割以上減るのは確実になっています。
 新しい担い手も入ってきており、昨年私の地区に就農した人がいますが、就農2年目で6ヘクタールも農地が集まっています。新しく引き受けるより、やめていく人の方が多く、不耕作地がどんどん増えている状況です。「不耕作地」は「不幸」を「作る」とも書けるが本当にそうです。

多面的機能は国民の財産では

「雪掘り」中の相澤さん。1階が雪に埋もれています

 農地の多面的機能の価値を試算すると8兆4千億円と資料にありますが、農地10アール当たりでは20万円、国民一人当たりでは7万円の恩恵を受けている計算になります。農家一人当たりでは724万円の価値を守っていることになります。これは国民の財産を守るすなわち国防になっているともいえます。防衛費がこれだけ増額されるのであればそのうちの一部を農地にも使ってもよいのではないでしょうか。
 経営移譲を受けた父とは農地で会えば言い争いをしていますが、負債のない状態で運転資金を引き継がせてもらったことに感謝をしています。父のように経営移譲するときは自信をもって渡せる状況を作り、営農を続けられるという余力をもって移譲することが大切だと思います。私も子どもたちに気持ちよく格好よく渡したいと願っています。
 しかし経営を取り巻く環境は個人ではどうしようもないところがあり、それを変えるのは農政を変えるしかありません。そのためには農民連のさまざまな会員の一致点を見つけて突破口にして前進させる。それは農民連にしかできないことだと強く思っています。
 私も地元で仲間増やしに取り組んでいます。昨年、同じ集落の青年農家から、「税務調査が来るが、どうしよう」と立ち話で相談を受けました。農民連が相談に乗ることができることを伝え、協力して対応しています。農民連にも近いうちに加入してくれる予定です。 農民連には格好良くあってほしい。一致点を大事に、運動を前進させることを願ってこの1年運動に取り組んでいきたいと思っています。


会員に要求アンケート 県連再建し県要請を実施 神奈川 髙野 芙由男さん(相模原市)

 これまで神奈川県連を支えていた役員が亡くなり、県連の活動が困難になっていたのですが、昨年春に役員体制を刷新し、再建を目指している所です。
 この間、要求アンケートを起点にして、秋の対県要求交渉に焦点を当ててきました。アンケートは会員を対象に配布し、約20人が回答。後継者・新規就農者への支援や耕作放棄地、獣害への対策、肥料・飼料高騰への補助などの要望が出されました。
 県内の基幹的農業従事者は1万6千人。県職員のうち、警察官の人数と同じくらいで、県の農業予算は172億円。現場の職員は奮闘していますが、予算と人員が足りないのは明らかです。
 11月の対県要求交渉では、(1)肥料・飼料高騰対策として県の補助事業を継続すること(2)収入保険の保険料への補助をすること、などの9項目を取り上げました。
 髙橋康雄会長は「行政の専門家である県職員と30年、50年先の神奈川農業の姿を描いていきたい」と交渉を締めくくりましたが、実際は、その場しのぎの官僚的な回答が目立ちました。

少ない補助でもあることが重要

対県交渉で訴える髙橋県連会長

 例えば収入保険については、千葉県や東京都では補助があるが神奈川ではないことや、少量多品目の都市農業という神奈川農業に収入保険という制度が役立つことは認めますが、「国が保険料の50%、積立金の75%を補助しており、さらなる補助をしない」というのが県の立場です。
 県内の愛川、松田、大井の3町では、独自の予算で支援に取り組んでいます。県の限られた予算でもやりようはあるはずです。
 金額が十分ではなくても補助があることは、新規就農者などにとって重要です。収入保険補助と家族経営の酪農・畜産への支援強化を県知事あて要請の重点項目とし、3月に回答が来ます。
 食料・農業という県民全体の健康や生命にかかわることに県農政部の職員が確信を持てていないように感じています。
 農民連の活動として、いかに農業所得を上げるのか。農業を支える制度をいかにつくるのか。家族経営の農家の要求を第一に取り組んでいく、これが第一原則だと思います。
 政治状況も変えることが必要です。学校給食無償化や地産地消、オーガニック給食、防災など県民的テーマに農民連としても諸団体と連携して取り組んでいきます。


国会傍聴で市民と野党の共闘の力を実感 茨城 萩谷 祥子さん(常陸野農民センター)

署名を手渡す荻谷さん(右から2人目)=24年5月28日、国会議員会館

 昨年の「食料・農業・農村基本法」改定での国会行動に際して、私たち常陸野農民センターでは、多くの会員に呼びかけて、ファクス要請行動に取り組み、国会にも足を運びました。
 参議院農水委員会で審議と採決が行われた5月28日に、私は生まれて初めて国会議事堂に入り、国会審議を傍聴しました。上着やメモ帳など、多くの物品の持ち込みが厳しく制限されることに、「主権者を何だと思っているのか!?」と疑問を感じました。
 審議では、政府・与党の、法案は1字1句も変えさせないという態度に歯がゆい思いと怒りを抱きました。それに対し、野党の議員たちはがんばって討論を行い、法案の問題点を指摘していました。
 大会1日目にあいさつをした立憲民主党の田名部匡代議員、国民民主党の舟山康江議員、共産党の紙智子議員らが、委員会で政府を鋭く追及する姿に、野党議員の熱意が伝わってきました。
 法案の強行採決前の質疑で、田名部議員による「あなたたち(与党議員)は何のために農水委員をしているのか。この委員会は、日本農業のために党派を超えて一致団結し知恵を出し合う場のはずでしょう」との涙ながらの訴えを聞いて、思わず「そうだ!」と、禁止されている拍手をしたくなる衝動に駆られました。
 委員会での強行採決後に開いた院内集会には、法案に反対した立憲民主党の横沢高徳議員と舟山議員、紙議員が駆けつけてくれて、「みなさんが傍聴してくれることで、私たちを応援してくれていることが伝わり、勇気をもらいました。たたかいはこれから」と激励され、自分も少しは力になれたと感じ、うれしくなりました。

一致点での共同 農政変えられる

 今回、農基法改定の一連の行動に参加することで、市民と野党の共闘を目の当たりにし、「共闘とはこういうことなんだ、一致点で力を合わせれば農政を変える可能性があるんだ」と実感でき、力になりました。


酪農家の離農食い止めて 所得補償明記し希望示せ 千葉 金谷雅史さん(酪農)

搾乳作業の合間に(写真は金谷さん提供)

 千葉で酪農をしています。酪農の現場はまだまだ厳しい情勢で、大規模・小規模にかかわらず、私の周囲の酪農家でも「あと2年も持たない」という声を聞いています。
 小規模の酪農家は借金が自分でたためるうちに離農していく。大規模牧場は自分ではたためない規模の人も多いですが、自分がいま厳しい状況にあっても「助けてくれ」と言えないまま限界が来て、黙って蒸発してしまうということが、この2年くらいのうちに出てくるだろうと囁(ささや)かれています。
 米農家の時給が10円と言われていますが、同じ2022年の全国の酪農家の平均所得はマイナス48万円、まさしくお金を払って牛乳を搾っているという状況でした。23年はかろうじてプラスの183万円。昨年24年の統計データはまだ発表されていませんが、酪農家仲間でも「最も厳しかった22年よりさらに悪化したのは確実」と話していて、仮にマイナス50万円とすると、3年で100万円ももうかっていないのです。
 365日、牛を飼って、搾乳して、これで生活できますか!? 仲間の酪農家は冗談ではありますが、「俺ら、奴隷だからな」と言います。本当に自尊心が傷つけられていると思います。

夏には牛乳も不足の懸念が

 この状況で全国的に搾乳牛の頭数も減り、今年と来年の生乳の生産量が減ってしまうのではないかという懸念があります。牛乳の消費は夏に旺盛で、冬は余るというのが常態化していて、今年と来年の夏は本当にスーパーの棚から牛乳がなくなるだろうと、私は予想しています。
 まず、酪農家の離農を食い止めることが先決です。農民連で昨年12月に行った要請で、農水省は「農業予算は増やせないので、地方交付金を勝ち取ってほしい」と言っていましたが、酪農危機は全国的な問題ですから地方に裁量を下すのはおかしいと思います。
 また、「食料・農業・農村基本計画」には、まず「所得補償」という言葉を盛り込んでほしい。このままでは酪農家は「国は守ってくれない」と絶望して、どんどん辞めてしまいます。あと5年もたたないうちに5千戸を下回るかもしれません。
 3月30日の「令和の百姓一揆」は、国民・消費者の皆さんにこの農業・酪農危機を知ってもらう良い機会になります。ぜひとも同じ方向を向いて一緒に歩いていただければと思います。


多面的機能評価し支援を 農業にも山の材を活用 広島 木戸 菊雄さん(県連会長)

 私は地元の広島県世羅(せら)町の山沿いで農業をしています。中山間地で農業や林業に携わる私たちは、普段の作業そのものが国土を守ることと直結しており、その意味で私は“銃を持たない自衛隊員”と同じだと思っています。
 同時に、中山間地は自然界と人間界の境界のような場所です。その境界の営農地で近年、獣害被害が深刻化しています。これは彼らが住む山林の状況が大きく影響していて、中山間地の営農者が減っていることに加えて、山林に入って仕事をする人が減り、山が荒れてしまっていることが原因です。
 農産物と同様、木材も輸入自由化によって山林の経営が成り立たなくなった、生活インフラとしてガスや電気が普及し、山の材として薪炭(しんたん)の利用がなくなった、などで山に人が入らなくなり、今では山を所有することが重荷になっています。見放された山はさらに荒れ、獣害の要因だけでなく、山崩れなどの災害も引き起こしています。
 これからの農業を守り、山林を荒らさないようにしていくためには、私たちが中山間地で普段担っている「収入には直接結びつかない作業」について、国がちゃんと評価しお金を払うことが重要です。農地や用水路の整備や維持、山の手入れなどは土砂の流出を防ぎ、洪水を防止します。岡山大学名誉教授の小松泰信さんが言われている「農業の多面的機能」維持への支払いです。これを実現させないといけないです。

自分の農業が交付金対象か!?

山から切り出し、新たに暗きょ排水に投入する予定の「そだ」(写真内の矢印部分)

 そして私自身が取り組む農業に、どれだけ山の材を活用できるのか。農水省「みどりの食料システム戦略」の中の「環境保全型農業直接支払」交付金の対象取り組みに「炭の投入」があげられています。しかし、私は「炭をつくる過程で出る二酸化炭素も抑えたい」という思いから、「そだ(木の枝などを切り取ったもの)」を暗きょ排水に直接投入しています。
 そういったやり方がこの交付金の対象になるのか、そもそもどういった経過で取り組み対象農家に認定されるのか私自身が知りたいので、この「環境保全型農業直接支払」交付金に申請してみようと思っています。