農を担い地域を守るのは誰か 家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)「食料・農業・農村基本計画」を問うシンポジウム(2025年03月10日 第1641号)
いかに自分の地域を守っていくか
国連「家族農業の10年」(2019~28年)に呼応し、家族農業に関する政策提言などを行っているFFPJ(家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン)は2月21日、都内の国会議員会館でシンポジウムを開催しました。
1月に農水省が示した「食料・農業・農村基本計画」(基本計画)骨子案に対するFFPJの提言を発表し、「5年後の2030年に農を担うのは誰か」をテーマに、多彩なパネリストが取り組み報告と今後の展望について議論しました。
国は“減る減る症候群”脱却を

(右から)村上さん、池上さん、田中さん、近藤さん、根本さん
「国は、農業就業者や農地、国内市場などが縮小していくことばかり強調し、“減る減る症候群”に陥っていないか。これに歯止めをかけ逆転させていく覚悟が伝わってこない」。基本計画への「提言」を発表した池上甲一さん(FFPJ常務理事、近畿大学名誉教授)は冒頭、政府の基本姿勢を厳しく指摘。その上で、食料生産の担い手である家族農業の経済的再生産と農業就業者の確保を担保する仕組みとして、「合理的な価格政策と農家への直接支払い制度を適切に組み合わせること」を提起。「提言」はこの他、家族農業で働く女性への支援策、食料自給率目標の明示など全19項目を発表しました。
4組のパネリストから取り組みの現状などが語られました。
ここでなら農業できる、を作る

「つながりを大事に」と川崎さん
大阪府羽曳野(はびきの)市の川崎佑子さん(「七彩ファーム」)は女性農業者・都市近郊農業を営む立場から発言。独立就農から7年目を迎える川崎さんは1・5ヘクタールの田畑でいちじくを中心に少量多品目を栽培。
農地は、平地ですが全て借地で20筆、地権者は7人で「今後、大規模開発で転用の可能性もある」と話す川崎さん。その中で、いかに農業を継続していけるかを考え「はびきの農家の煮こみ会」を地域の若手農家(8農家10人)とつくり、機械の共同購入や駅前マルシェの共同開催で、それぞれの自農園ファン獲得などに取り組んでいることを紹介。
「農業の継続には所得を上げることが欠かせません。でも1人では限界があります。仲間と取り組むことで地域も守り、これから新規就農する人にも『ここでならやっていけそう。1人で全て背負うことはないんだ』と思ってもらいたい」と展望を語りました。
旧町単位で地域守る取り組み

「もっと消費者と連携したい」と鎌谷さん
鳥取県八頭(やず)町の鎌谷一也さんは、旧町単位でつくった農事組合法人「八頭船岡農場」の組合長。「集落営農の議論を地域で重ねてきた」と話す鎌谷さんたちは、旧船岡町管内の農地の76%にあたる270ヘクタールを法人に集積。「耕作放棄地ゼロ」、「相互扶助」などの理念を掲げ、様々な取り組みを地域で展開していると紹介しました。
集落内で地域を守る役割を分担。年4回のあぜ草刈りや用水路管理をする主要グループの他に、非農家を含めた若手でつくる自警団が、水利施設の長寿命化対策の自主施行を担当。老人クラブや子ども会も交流事業に加わっています。鎌谷さんは、「農に触れることで地域を守る意識を醸成し、地域外への魅力発信を強めています。農業とふるさとを守るには、どれだけ主体的な活動が地域でできるかどうか」と強調しました。
農協が有機農家の育成を実践
茨城県石岡市のJAやさと有機栽培部会の田中宏昌さん(部会長)は、有機栽培農家を地域で育成する具体的な実践を紹介。JAやさとの有機ほ場や石岡市の有機ほ場で2年間研修し、独立後は有機JAS取得農家として地域で営農してもらう取り組みを99年から行っています。
「現在、部会には32軒の有機農家が所属していて、私も14年前にこの研修制度に応募し、家族で移住してきました」と語る田中さん。研修生には部会の先輩農家がつき、栽培技術から生活面までサポートします。「栽培から販売までを覚えてもらう中で、お客さん、部会内、地域とコミュニケーションをしっかり取れる農家になってもらう。毎年2組の受け入れになりますが、生産規模の大小にかかわらず専業で食べていけるプロ農家を今後も増やしていきたい」と抱負を述べました。
市民・若者が地域の創造者に
福島県二本松市の「あだたら食農スクールファーム」代表の根本敬さん(福島県農民連会長)と、同市に家族で移住したばかりの近藤匠さんは「青年は農村をめざす」をテーマに取り組みを紹介しました。根本さんはスクールファーム設立の目的を、「地域内での就農支援と第三者継承の具体的な道筋としてつくった」と報告。国の「中山間地等直接支払制度」や県の支援事業などを活用して運営しています。
昨年7月に東京都内で開催された「福島県くらし&就農フェア」にブース出展し、そこで出会ったのが近藤さんでした。いま、「地域おこし協力隊員」として活動しながら新規就農の準備を進めている近藤さん。「自分のめざす農業と根本さんたちの活動がつながった」と語ります。根本さんは「市民の新しい感性と、農に挑む若者たちが地域の創造者になってもらいたい」と展望を述べました。
パネリストたちは参加者の質問に応えながら、経験や手応えを交流。「新規就農と『空き家バンク』の互換性をもっと高めてほしい」(田中さん、近藤さん)などの課題や、「地域外から消費者、学生などが農を求めて来てくれる」(鎌谷さん)、「収穫体験では物足りない、もっと栽培を身につけたい、と作業ボランティアに来る人も多い」(川崎さん)など、国民の食と農への関心の高まりも共有。「関東近郊では研修生の取り合いになっている。情報発信を強めたい」(田中さん)、「農村の豊かさを発信して、農村をめざす人の一歩を踏み出す力になりたい」(近藤さん)と今後の意気込みを語り合いました。そしてパネリストからも国に対して「不足払い」制度や、「大規模農家に偏らない支援継続」の実施などが求められました。
FFPJ代表の村上真平さん(三重県津市の自給農家)は、「自分たちの地域で持続可能な農業の形を仲間と一緒に探求している皆さんの取り組みは、アグロエコロジーの運動そのものだと思う。農業は単なる1つの職業ではなく、『地域』なんだとあらためて認識した」とまとめました。
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「提言」やシンポジウムの動画はFFPJホームページから見ることができます。