旬の味(2025年03月17日 第1642号)
今回を含めて残り2回となったこの「旬の味」の寄稿も思い返せば随分と長いこと掲載させてもらった。私が牛を山に放してから、まだ経営的にプラスになっているわけではない▼しかし、温かな家族がいて、牛が健やかに山で育ち、荒れていた土地が少しずつ開けて日の光が大地を照らし、そこに住む鳥やカエルなどの生き物たちが喜びの歌を歌う風景を毎日のように見られるのは、どんなにお金を払ってもなかなか手に入れられるものではない▼私は農家とは生き様であると思う。私のような兼業でやっている人間も、大型機械でガッツリ先端農業をやっている担い手も、志は同じではないだろうか。その土地に根づき、命を育む。そうした当たり前のことを私たちの祖先は連綿と続けてきた▼今まで当たり前であったことが当たり前だと言えなくなっていく世の中で、それでも私は、この土地を耕し、この命をつないでくれた先人たちに敬意を払い、声を大にして言いたいのだ。農業こそ人が真に生きる道であると。(T)