国産小麦のおいしさと魅力を広げたい 添加物を使わない食品メーカー 埼玉県幸手市「前田食品」(2025年04月07日 第1645号)
選ばれる会社を目指して
入江千賀子さん・恭さん

有機県産小麦を学校給食に提供する夢を持つ千賀子さん(左)と恭さん
埼玉県幸手市にある「前田食品」(1954年設立)は、国産の小麦や玄蕎麦(そば)からつくる、こだわりの粉をはじめ小麦粉製品や自社製パンをつくっています。国産小麦のおいしさや魅力を広げながら、『求めている人に選ばれる食品メーカーになろう』と食品添加物を極力使用しない“食へのこだわり”にも挑戦し続けています。常務取締役の入江千賀子さんと息子の恭さんに話を聞きました。
埼玉県産をはじめ各地のJAや契約農家から届く小麦を挽(ひ)いて強力、中力、薄力、全粒粉などを企業や個人向けに販売している前田食品。多彩な商品について千賀子さんは、「本当に少しずつ少しずつ歩んできた」と振り返ります。
戦後からずっと政府からの払い出しを買うしかなかった小麦は、2000年に民間流通制度が導入されました。「この頃から私たち製粉会社から『こんな小麦を作ってほしいです』と農家さんに直接伝えられるようになった」と千賀子さん。それまでは小麦の品種や品質に対して希望が出せず、生産現場との意見交換の場がありませんでした。「それから徐々においしいうどんができる小麦、お菓子ができる小麦、と用途にあった品種が育種されるようになり、外国産小麦よりもおいしい小麦が少しずつ出回るようになりました」
ハナマンテン県内の栽培実現

小麦粉製造工程の様子(前田食品提供)
2006年、前田食品は念願だった強力小麦と出会います。それが長野県で育種された超強力小麦の「ハナマンテン」です。小麦の風味が豊かでモチモチとした食感が特徴。「この小麦を埼玉でも作りたい!」と社内で意見が一致。前田食品は許諾料の支払いなどに奔走し埼玉県での栽培にこぎつけ、地元のパン屋さんや製麺所などに販売するようになりました。「ハナマンテン」の栽培を県内で最初に取り組んでくれたのが坂戸市の農民連会員の「原農場」原秀夫さんでした。
国産小麦だけを扱う製粉会社に
そして2018年、前田食品は大きな決断をします。100%国産小麦の製粉会社に切り換えました。「小麦の品種改良が進み、各地で特色ある小麦が栽培されつつあり、国産小麦栽培の質と量の面でも安定しつつある中で、社内で『全量国産でいけるのではないか』と話し合いました」(千賀子さん)。翌19年には有機JAS認証も取得。こだわりの製粉会社としての発信を強めていきました。
自国でつくる必要がある!
挑戦を続ける前田食品に恭さんが入ったのは昨年9月。22年までイギリスの大学院に通い、帰国後は専攻したAI(人工知能)関連の企業に就職しました。「自分自身が会社をやりたいと思う中でいま、親の会社で学びながら自分のスキルを生かして支援しています」と話す恭さんは、前田食品での日々を「すごく面白い!」と語ります。
「ITやサービス系は優れたシステムが世界のどこかで開発されたら日本も導入すればいい。でも、農業や製粉はそうはいかない。次世代のことも含めて『自国でつくり続けること』に理由があり、そういう食のところに関われる喜び、ロマンを感じています」。先日、会社の敷地の一部を鍬(くわ)で耕し、春小麦の種まきをした恭さん。「麦がどうやって育っていくのかを知りたい」と栽培にも挑戦しています。
体をつくる食にこだわる

取材で伺った日の社員食堂のランチメニュー。おいしかったです!
小麦にこだわる前田食品は、添加物を使用しない食へのこだわりも大切にしています。商品は「香料」や「着色料」不使用で、パンやお菓子には「イーストフード」や「ビタミンC」も使わず、パンケーキミックスには「アルミニウムフリーのベーキングパウダー」を最低限入れるのみに抑えています。「メーカーとしての責任がありますし、やっぱり食で体はつくられています。食を大事にしている方々に選ばれる会社でありたい」と千賀子さんは力強く語ります。
食を大切にしよう、という実践は社内でも。一律300円で利用できる社員食堂は、地元の生協組合員さん協力のもと、生協の食材と新鮮な野菜を使ったメニューやダシからとったみそ汁などが日替わりで提供されています。「ハナマンテン」の後継品種の選定や、県独自の小麦づくりなど、今後の取り組みにも意欲的な前田食品。「約40人の会社ですが、これからも食へのこだわりを大切にしていきたい」と話す千賀子さん。恭さんも「いろいろな食べ物に変化する小麦粉の魅力をもっと伝えていきたい」と前を見据えます。