米・農業危機打開のために 農家を本気で支援する施策を(2025年06月30日 第1656号)
直接支払い(所得補償)と価格保障を組み合わせてこそ
小泉農相は6月17日、10年ぶりに経団連と懇談会を開き、企業による農業参入の加速化、大区画化・大規模化の徹底やデジタル技術で農産物の生産から消費までのデータ支配、スマート農業、輸出の拡大や安定的な輸入体制について話し合いました。
財界に米と農業差し出す小泉氏
消費者米価の高騰と米不足を招いた自民党農政への反省は一言もなく、財界に主食の米と農業を新たなもうけのネタに差し出す宣言に他なりません。現在の米生産は10ヘクタール以下の農家が97%を占め、消費量の3分の2を生産していることは全く眼中にありません。
二度と深刻な米危機に陥らないために、生産農家を本気で支援する農政改革が必要です。農家に需要に応じたギリギリの生産を押し付け、消費者には市場丸投げの価格で買わせる、これまでの農政を代えなければなりません。その中心が、農家への価格保障と所得補償を組み合わせて直接支援し、消費者が安心して買える価格に政府が責任を持つことです。
価格保障
再生産可能な価格を維持する
価格保障は、農産物の価格(農家手取り価格)を生産コストにもとづく一定の水準に維持する施策です。販売量が増えるにつれて収入が増えるため、農家の意欲と誇りを高めることにつながり、農家経営の安定、生産の拡大に最も有効です。
再生産が可能な価格(物財費+労働費+地代利子)の保障は、「作り続けること」ができるためにどうしても必要です。21年の米価暴落時の1俵8~9千円は物財費も賄えず、一気に米作りからの撤退が進みました。価格保障を実施してこそ、収量の増加・品質の向上・アグロエコロジーで経費の外部流出を抑えるなど農家の努力が報われます。
アメリカでは小麦や大豆・トウモロコシ・米の主要農産物について生産費にもとづく基準価格と市場価格との差額を補てんする「不足払い制度」で農家経営を支援しています。
所得補償(直接支払い)
面積など基準に農家所得を補償
所得補償(直接支払い)は、農産物の生産や販売量とかかわりなく、耕作面積や家畜単位など一定の基準で農家の所得を補償する仕組みです。
農業の多面的な機能の発揮、条件不利地での営農を継続し国土を守る施策です。農業と農村は食料の安定供給とあわせ、水源のかん養、洪水の防止、土壌の保全、大気の浄化、レクリエーション空間の提供など多面的機能があります。
経済的価値を試算すると、4兆1千億円から11兆8700億円と言われます。
これらの経済効果は、農民が資金を自己負担し、地域の無償の共同労働に支えられて維持されてきましたが、耕作放棄地の拡大などでその機能が崩壊しようとしています。
直接支払い制度は、日本の農地と生態系を未来に引き継ぐための費用であり、その成果は広く国民が享受するものです。
(1)農地と水路・畦畔(けいはん)を管理し生産力を維持する費用--例えば、全国に張り巡らされた水路の延長は40万キロメートルあり、地球10周分です。さらに畦畔面積は14万ヘクタール、あぜの草刈り時間は10アール当たり5・4時間です。
(2)里山・山林という再生可能エネルギー・林産物の生産基盤の維持
(3)農山村の多面的機能の維持
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食料供給保障と農業所得支える
農民連
農民連は、23年6月に発表した『新農業基本法への提言』で、食料供給保障と農業所得を支える直接支払制度の確立を求めています。具体的に、(1)食料供給保障支払交付金、(2)農山村持続性確保交付金、(3)環境保全型農業直接支払交付金の実現を要求します。