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地域を結んで未来を開く 和歌山 紀の川流域カンパニーが誕生(2025年07月21日 第1659号)

紀ノ川農協、異業種や行政が連携協力

市民・体験農園、農業研修で地域を再生

 地域に根づく事業者5社の連携による新しいまちづくり会社が和歌山県紀の川市に誕生しました。地域事業者間同士の連携や行政との連携によって、新しい地域活性化の取り組みを通して地域の諸課題が解決される社会をつくる「紀の川流域カンパニー株式会社」です。地域を結んで未来を開く取り組みに注目が集まっています。

持続可能なまちづくりへエール

設立の記者会見。(左から)岩鶴さん、船木さん、岸本市長、宇田さん、高瀬さん、北川さん

「たくさんとれた」。とうもろこし収穫体験=7月5日

 同社の代表取締役社長は、紀ノ川農協組合長の宇田篤弘さん。「耕作放棄地や空き家対策など地域課題解決のための会社です。地域をリアルに見て何ができるのか、地域の価値を見つめ直すよい機会です」と強調します。
 2024年11月27日に紀の川市役所で「紀の川流域カンパニー」の設立記者会見が行われました。紀の川市の岸本健市長は、「年々複雑化・多様化する地域課題の解決を市役所だけが担うのが難しくなっている。流域カンパニーの取り組みは地域の問題を解決する原動力であり大変重要。農業の発展なくして地域の発展はない。将来にわたって持続可能なまちづくりをするために市も協力したい」とエールを送りました。
 会見には、同社に出資する5社の代表が参加。宇田組合長をはじめ、「有限会社熊井自動車」の高瀬直志さん、「株式会社舩木建設」の船木進也さん、「いわつるfam.(ファム)」の岩鶴和昭さん、「株式会社MISO SOUP(ミソスープ)」の北川智博さんです。各氏は、この取り組みに寄せる思いや期待を語りました。

異業種の連携で交流と事業創出

カフェの前で岩鶴さん

 事業内容の一つは、市民・体験農園を通じた新たな交流・事業の創出です。市民農園で栽培技術を学ぶことで持続可能な環境保全型農業を推進します。そこで交流することで、農業ボランティアを募り、新規就農者の育成につなげるなど、トレーニングファームの役割も果たします。
 年間通じて多種多様な品種品目を栽培できるこの地域ならではの環境を生かし、ゆくゆくはエリア全体を体験農園のテーマパークにすることを目指します。
 二つめに、地域の異業種が連携することで、遊休農地(耕作放棄地)や空き家を解消し、宿泊滞在型の観光と移住・定住を促進して、人財の育成に取り組みます。
 出資者の一人、いちご農家の岩鶴さん(45)は、地域で遊休・荒廃農地が増え、農業者が減少・高齢化することを憂えてきました。「地域の現状をみて、何としても担い手を増やしたいという思いです。新規の農業者を増やすには、県外からも受け入れ、研修も必要。自分だけでは限界があります。他業種の方々とも連携して地域を元気にしたい」と期待を寄せます。
 岩鶴さん自らも、いちご観光農園を営み、いちご狩りなどを通じて、人と人とが出会い、交流する場を提供。さらに敷地内にカフェと直売所を併設し、ソフトクリームやフラッペ、スイーツなどイチゴをとことん味わってもらおうと取り組んでいます。
 いちご以外にもブドウを栽培。将来的にはメロンなどにも広げ、1年中収穫体験ができる農園に発展させ、盆踊りを復活させるなど地域おこしに貢献したいと夢が広がります。

地域課題解決の要・紀ノ川農協

改修中のゲストハウス

 流域カンパニーの活動を支えるうえで大きな役割を果たしているのが、農業や農村に関わる人を増やし、地域の課題の解決と組合事業の維持・発展をめざしている紀ノ川農協です。
 流域カンパニーの設立までに、体験農園の拠点となる古民家は、地元生協が商品の引き渡しステーションとして借り受けてトイレの改修工事を行い、隣接する倉庫を紀ノ川農協が借り受けました。自治会の総会などで今回の取り組みを説明し、地域の人々の理解を得て遊休農地を活用した約60アールの体験農園を確保。畝たてなどの作業は、紀ノ川農協の役職員が忙しいなか協働して行い、収穫体験のガイドも行いました。
 現在は、古民家をゲストハウスやシェアハウスに改修中です。
 地区では、約30ヘクタールの農地の水を賄う、老朽化したため池や水路の改修・整備にも取り組んでいます。
 紀ノ川農協総務部長の中尾いづみさんは、流域カンパニーに関わりを持ちながら、それぞれが事業を進め高め合える関係性を模索する意義を強調します。「この初めての取り組みを通じて農業に携わる人が増え、農産物をたくさん作り、出荷してもらって、生産量が増えればいいなと思っています」

インターン募集 収穫体験を実施

 現在、地域おこし協力隊のインターン生を募集中。県や市の支援を受けて、紀の川市に2週間~3カ月間滞在し、「体験観光農園」「宿泊施設」の立ち上げ、運営、PR(ピーアール)の仕事を体験します。
 6月28日から7月13日まで「とうもろこし収穫体験」を実施。総勢360人が参加し、収穫体験のほか、農民「号外」を使っての食と農の学びの交流の場となりました。
 流域カンパニーの今後について、宇田さんは「農業の魅力を発信し、若い人が楽しく農業に携わっていけるような環境を作れる会社にしていきたい。この取り組みに共感し移住される方のニーズも踏まえ楽しく暮らせるにぎやかな地域づくりに貢献したい」と抱負を語っています。
 詳しくは、紀ノ川流域カンパニーのホームページなどを参照。