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排外主義は食と農に何をもたらすか 人種差別・優生思想の台頭を許すな(2025年07月21日 第1659号)

OKシードプロジェクト事務局長 印鑰智哉さん(寄稿)

 参議院選挙は、自公農政に厳しい審判を下す機会であるとともに、「日本人ファースト」を掲げる排外主義勢力にもノーを突きつける選挙です。排外主義は食と農に何をもたらすのか。OKシードプロジェクトの印鑰(いんやく)智哉さんに寄稿してもらいました。

有機農業推進を掲げるが本当か

「フェミニズムなしにアグロエコロジーはありえない」。ブラジル・パラ州北部女性運動(MMNEPA)=第3回全国アグロエコロジー大会、2014年5月(ブラジル・バイア州ヴァリ・ド・サンフランシスコ連邦大学で)

 農業や食の政策がずっと自動車産業を守るために犠牲にされ続けてきた日本で、次の参議院選挙ではその政策を変える候補に投票したいですね。しかも「令和の米騒動」と言われる事態が起きており、離農する農家が続出する状況ですからなおさらです。そんな中「参政党はいいよね」との声も聞こえてきます。確かに有機農業や地産地消をうたっています。でも、それは本当でしょうか?
 実は同じことが歴史では繰り返されました。ナチス・ドイツは「飢餓から子どもたちを守れ」というスローガンで支持を獲得したと京都大学の藤原辰史さんは指摘します。ナチス・ドイツはドイツで生まれたバイオダイナミック農法の指導者を取り込み、有機農業の普及を政策に掲げます。しかし、ナチス・ドイツの本質が障がい者、ユダヤ人、反対勢力を抹殺する人種主義・優生思想にあったことは歴史が物語っています。
 なぜ、ナチス・ドイツは有機農業の普及を掲げたのでしょう? これは近代民主主義思想に対抗するために自分たちの思想を箔(はく)付けするために利用したにすぎません。それが取って付けたものにすぎなかったことは彼らの実践がすべてを物語っています。実際に強化されたのは農薬・化学肥料をベースとした農業でした。
 戦後、ドイツから二つの巨大農薬企業が世界に進出します。それがバイエルとBASFです。毒ガス製造や爆弾の技術は農薬や化学肥料の技術でもありました。彼らはナチス政権の下で、戦争に必要な物質を作ることで巨大化し、それは同時に農業にも使われました。
 戦後、その力は戦争から農業へと振り向けられます。ナチス・ドイツのもたらした農業とはジェノサイドを引き起こした毒ガスを活用した工業型農業であり、バイエルとBASFの両者は後に世界の4大遺伝子組み換え企業を構成します。

「参政党はいいよね」はないよね

主権在民を否定 天皇中心の国家

 参政党は憲法草案をまとめ、主権在民を否定して、天皇を中心とした国家を描きます。そのきな臭さを隠すのに有機農業や食料自給率の向上を掲げているにすぎません。「そんなことない」と言われるかもしれませんが、参政党は「日本人ファースト」を掲げ、外国人排斥を主張します。そして女性の権利も否定です。果たして、自然は差別をするでしょうか? 自然が必要とするのは多様性です。本当の農業を発展させるには相いれない主張が彼らの根幹なのです。
 参政党に保守勢力とか右傾化という言葉を使うべきではありません。なぜなら、彼らの本質は憲法の否定であり、民主主義の破壊なのです。止めるのが遅すぎた、とならぬよう、農民を守ると称する偽物ではなく本物を選びましょう。

有機農業や農薬批判はカルト?

 一方、日本では有機農業や農薬への批判がカルトであるかのように決めつける言説が目立ちます。参政党が推しているから有機農業や農薬批判が問題あると考えるとしたら、これもまた暴論です。国際的にはすでに10年以上前から有機農業を含むアグロエコロジーこそが世界に必要な農業政策であることが科学者や農民、市民らによって同意されて、国連総会でもその推進が決議され、世界各地で普及のための会議も積み重ねられています。
 世界各地の大学にはアグロエコロジー学科が設置され、有機農業が科学として研究されており、こうした取り組みもあって、20年間に15倍を超える勢いで世界で有機農家が増えており、市場成長率も農業分野の中でもっとも有機農業が顕著で、もはや世界の農業のメインストリームとなり始めています。
 有機農業をカルト扱いするというのはあまりにこうした国際的な動きに無知な日本語情報圏に特有な現象と言わざるをえません。そして、農薬に関しては、日本政府・農水省ですらネオニコチノイド系などの農薬は2050年までに50%削減することを目標に掲げています。
 
 アグロエコロジー、脱化学農薬・肥料はすでに世界の基本的な方向となっており、農薬企業が強い力を持つ日本ですら(しぶしぶ)それに従わなければならない状況になっているにも関わらず、その事態を把握していない言説が多すぎます。もちろん、有機農業、農薬・化学肥料批判の中には科学的探求とは相いれないものもあるかもしれませんが、世界中で動いているのは科学的な裏付けのある事実に基づいたものであり、カルトではありえません。

女性の権利認めてこそ農業発展

 もし、農村に女性差別が強く残り、女性が尊厳を守るために村を出なければならないような環境であれば、その農村が発展することは不可能です。アグロエコロジーを進める人びとはフェミニズムなしにアグロエコロジーはありえないと繰り返し、主張しています。
 そして女性の権利が向上した地域でこそ、やはり農業や経済も進んでいることも指摘されています。その意味でも、女性の主体性を認めない参政党の主張は到底、農業や地域を発展させることはありえないでしょう。
 参政党に対しても、有機農業、農薬・化学肥料批判をカルト扱いすることに対しても、それを許さない声を出しましょう。