史上最悪の日米関税合意 世界を関税で恐喝する無法を許すな(2025年08月04日 第1661号)
7月23日、トランプ政権の横暴な脅しと身勝手な要求に石破政権が一方的に譲歩して、世界貿易の歴史の中で最悪の「合意」が結ばれました。
トランプ大統領 「史上最大の取引」と勝利宣言

第6回米国の関税措置に関する総合対策本部で発言する石破首相=7月25日、首相官邸
合意の内容は(1)自動車関税を2・5%から15%に引き上げ、(2)それ以外の相互関税も一律15%にする、(3)日本がアメリカの産業向けに80兆円(5500億ドル)投資し、利益の9割が米側に配分される、(4)米国製の武器(防衛装備品)を毎年数千億円追加購入、(5)ボーイング機100機を購入する―などというものです。
農産物については、◆アメリカ産米の輸入を直ちに75%拡大し、35万トンから60万トンに、◆大豆やトウモロコシなどの輸入を1兆2千億円分増やすとしています。このほか、◆日本側の規制撤廃によりアメリカ車の日本市場参入を可能にする、◆アラスカ産液化天然ガスの取引協定を検討するなどなど。
これは「貿易協定」などといえるものではありません。
トランプ大統領は「史上最大の取引」「アメリカは巨額のボーナスを得た」と興奮ぎみに勝利宣言をしています。これに味をしめ、アメリカが世界各国を永続的に高関税で恐喝し、貿易ルール違反の高関税と貢ぎ物を差し出させる無法を許すわけにはいきません。
薄汚い取引の果てに
トランプ氏はもともと不動産王です。「大きく吹っかけてディール(取引)に持ち込む」を信条とし、地上げ屋のようにどう喝を繰り返す“悪徳不動産屋”の本領はいかんなく発揮されました。
日米合意の最終局面で、トランプ大統領は赤沢経済再生相をホワイトハウスに引っ張り込み、70分間にわたって取引を迫りました。本来、秘密交渉のはずのやりとりを新聞各紙がリアルに伝えています。
「関税を1%下げるから、代わりにこれをくれないか」「コメの輸入はもっと増やせるはずだ」「アメリカへの投資、支援額も増やせるだろう」「ボーイングはもっと買えないのか」
アメリカへの巨額投資計画の増額を要求するトランプ氏の目の前で、赤沢氏は少しずつ額を積み上げてゆき、最終的には4000億ドルから5500億ドルに膨らみました。
「日本政府は合意に向けて、トランプ氏がこだわっていた日本の農産分野の市場開放についても対応。農業関係者票が左右する参院選前は積極的にアピールできなかったが、米国産米の輸入について、既存の外国産米を無関税で輸入する「ミニマムアクセス(MA)」制度の枠内で最大限拡大する方針を提示。トランプ氏に花を持たせた」(「毎日」7月23日)。
こういうバナナのたたき売りのような取引の果てに自動車・相互関税25%から15%への「引き下げ」と、米輸入75%増や大豆・トウモロコシ輸入1兆2千億円増、80兆円巨額投資が決まった事実を私たちは直視する必要があります。
「言いたいこと があっても、言ってはいけない」
石破政権は25%から15%への関税引き下げを「国益を守った画期的な成果」だと吹聴しています。しかし、これは戦時中に大本営が「敗退」を「転進」と言いつくろったのと同じく負け犬の遠吠(ぼ)えにすぎません。
25日の与野党党首会談で石破首相は「トランプ大統領はもともとアメリカが一方的に搾取されているという認識だ。この認識を踏まえた交渉なので、言いたいことがあっても、言ってはいけないということがある」と述べました。要するに、トランプ大統領のどう喝とごり押しに何も言えずに全面降伏しただけではありませんか。
トランプ政権のルール違反を不問にした「合意」は、日米貿易協定の一方的な破棄と、世界貿易機関(WTO)協定違反を追認することになります。
文書なき「合意」の異様さ
今回の合意の異様さは、合意文書が存在しないことです。こんなずさんな国家間交渉は、前代未聞です。
与野党党首会談に政府が提示した文書はたった1枚の「概要」だけ。対してアメリカ側は「合意」の詳細な内容を記した「ファクトシート」を発表し、トランプ大統領の「成果」を宣伝しています。
日本政府が提示した「概要」には、武器やボーイング機の追加購入などは一切記されておらず、米の75%輸入拡大についても「必要なコメの調達を確保」するとしか記されていません。
また、「ファクトシート」は日本が大豆やトウモロコシなど農産品を含む米国製品を80億ドル(約1兆2千億円)分購入するとしていますが、「概要」に金額は記されておらず、日米間で明らかな食い違いが存在しています。
ベッセント米財務長官は、合意の実施状況について四半期ごとに精査し、トランプ大統領が不満なら関税を25%に戻すと発言しています。日本共産党の田村智子委員長が会談で指摘したように、今回の「合意」が一方的に破棄され、アメリカのさじ加減で、いくらでも高関税を押しつけられる仕組みになっているのです。
恐喝システム永続化
トランプ大統領は第1期以来、「私が結ぶのは、公正な貿易協定ではなく、アメリカに都合がいい協定だ」と言い放ち、「アメリカ第1主義」で国際ルールを書き換えるという覇権主義を強めてきました。
トランプ政権の暴走を容認してしまえば、アメリカは今後ずっと、各国に差別的な高関税を課して脅迫し、アメリカに有利な譲歩を強要することが可能になります。トランプ政権に限らず、アメリカが世界各国を永続的に恐喝し続ける世界貿易システムが完成しかねません。
ルール違反の是正を求めないばかりか、恐喝外交に屈従した石破政権の「合意」は、米国の経済覇権主義を助長し、日本国民のみならず他国民にも損害を与える危険が大きいといわなければなりません。