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「被爆の実相」を未来へ受け継ごう (2025年09月01日 第1664号)

原水禁世界大会in長崎に参加して 農民連本部 芦野大地

 被爆80年の今年、原水爆禁止2025年世界大会・国際会議が8月3日~9日に広島県と長崎県で開催され、7日間でのべ1万2930人が参加しました。海外代表は、核保有国のアメリカやフランスを含めた200人以上が来日しました。
 農民連本部から事務局の芦野大地さんが長崎大会に参加。大会では、「被爆の実相」を未来に受け継ぐことを特別に重視したプログラムが多彩に取り組まれました。芦野さんのリポートです。

被爆者の生の声聞き廃絶運動を

被爆体験を語り継ごうと
若者たちも誓い合いました

 7日の長崎市では、「被爆体験の継承と未来―被爆80年長崎のつどい」が開かれました。
 長崎実行委員会代表委員の鳥巣雄樹さんは、「被爆者は人類が経験したことのない放射線障害に苦しみ、必要な治療や支援を日米両国による被爆の実相の隠蔽と放置によって受けられず、病と貧困に苦しんできた」と指摘しました。「これからはあの日の記憶を直接持たない世代が継承していくことになる。被爆者の生の声を聞き、核兵器によって引き起こされる、想像を絶する痛みや苦しみを自分のものとして、実感する努力を続け、核兵器廃絶の運動を受け継ごう」と呼びかけました。

 

廃絶まで絶対にあきらめない
被爆者たちは叫び続けてきた 「核兵器は絶対使ってはいけない」

日本被団協代表委員 田中煕(てる)巳(み)さんが証言

核兵器廃絶運動を力強く語る田中さん

 日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表委員の田中煕巳さん(93)=当時13歳=が被爆した経験を語りました。
 「子どもがね、爆風に飛ばされて壁にはりついたまま焼かれてね、真っ黒な子どもが壁にはりついているのを見ました」。おばやいとこが目の前でなくなり、焼いて荼毘(だび)にふしたこと、「クラスメートが『私は一人です。家族はみな死んでしまいました』と語った彼の声が今も忘れられません」と涙ながらに証言しました。
 戦後、極度の貧困に苦しむ田中さん。「1週間、固形物が食べられないことが何回もありました。ひもじいという感情もなくなるのです」と戦後の中学生時代を振り返り、「日本が戦争の被害者を助けないことが残念で、被爆者の健康と生活を守るために被爆者運動に取り組んできた」と述べました。
 「被爆者は『核兵器は絶対に使ってはいけない』と叫び続けてきた。それは、その結果が非人道的で、本当に残忍な状況だから」と語り、「いまだ世界には1万2千発もの核兵器が存在する。しかし、被爆者運動ができてからの70年間、被爆者の声が一度も核兵器を使わせなかった」と声を上げ続けることの意義を強調し、日本政府へ核兵器禁止条約に参加するように求めました。

核なき世界へ壮大な運動誓う

 世界大会宣言では、核兵器使用の危機に直面し、国連憲章を踏みにじる武力行使や大軍拡を進める国が、公然と核戦力への依存を表明していることは重大であり、「核抑止」論は、核攻撃による壊滅的な結果、ヒロシマ・ナガサキの再現を前提とした政策であり、絶対に許されないと指摘しました。
 その中で「核兵器禁止条約を生み出した被爆者を先頭とする市民社会と諸国政府の共同こそが、世界の本流。核戦争阻止と核兵器廃絶を求める壮大な行動を展開しよう」と世界に呼びかけました。

原爆の悲惨さを伝える担い手に

 被爆者の平均年齢が86歳を超える中、参加した多くの青年が、継承者として模索する姿があちこちで見られました。
 8日に長崎市で開かれた分科会「青年の広場」では、核兵器廃絶運動の歴史を学び、被爆証言を今道忍さん(88)=当時8歳=が語りました。今道さんは、「戦争があったから原爆が使われた。だから絶対に戦争だけはダメです。核廃絶も時間はかかるかもしれないが、廃絶まで絶対にあきらめない。次の時代にも引き継いでほしい」と青年に呼びかけました。
 質疑応答では、「戦争を直接経験していない世代が継承するのは難しいと感じる。これだけは伝えてほしいという願いはありますか?」との問いに、「私自身も家族を亡くした訳ではなく、もっと壮絶な体験をした方がいるからと、証言は控えてきた。青年には、命の尊さ、戦争や原爆の悲惨さを語り続けることで、きっと大きな変化を起こせると確信している」と、青年が担い手になることを呼びかけました。
 グループ交流では、周りの青年にどう伝えるか、などについて交流しました。
 ある参加者が「戦争の話題は空気が重くなるから話しづらい」と語ると、「被爆の実相を軽くは語れない。戦争や被爆の被害を語り継ぐには、重さも一緒に伝えることが大事では」「被爆者の声が核兵器禁止条約に結実し、世界の本流であると希望も伝えたい」など、ためらいにも答えて、青年自身が被爆の実相を継承するために何ができるのか、クロストークで深めていました。