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記録的豪雨で牧草に大被害 北海道道北 農業共済対象外の牧草にも自然災害の補償と支援強化を(2025年10月20日 第1671号)

排水機能上回る豪雨で牧草冠水

 酪農王国、北海道では今夏、豪雨や干ばつなどの気象災害があいつぎ、牧草やデントコーンなどの飼料生産が大打撃を受けています。

北海道豊富町の酪農家 渡邊敏司さん

渡邊さん夫妻

利尻山を望む渡邊牧場の牧草地

 宗谷管内や天塩町などの道北地方では8月下旬、断続的に豪雨が襲い、8月26日には24時間の降水量が、稚内市で110ミリ、豊富町では観測史上最高の196ミリに達しました。
 過去に例のない豪雨で、豊富町では町西部を中心に、利尻礼文サロベツ国立公園にもなっているサロベツ原野に接した海抜の低い牧草地などが軒並み冠水・水没。2番草の収穫を目前にした草地2274ヘクタールや、刈り取った後、草地に置かれていた乾草やラップサイレージ(※牧草ロールをビニールで巻いて発酵させた飼料)1278個が水につかりました。
 同町で60頭を搾乳する酪農家の渡邊敏司さんも、65ヘクタールある牧草地のうち平野部にある15ヘクタールが冠水の被害を受けました。「なにしろ海抜3~4メートルという低湿地なので、その後10日間も水が引かなかった。冠水した牧草は枯れたり、枯れなくても泥が牧草に残り、飼料にならないのはもちろん、牛舎の敷料にも肥料にもならない」と渡邊さんは言います。
 「水没しなかった草地でも大雨で根から枯れてきて、収量も半減し、品質も悪くなって、牛はにおいに敏感なので食べなくなる。それでも来年の牧草栽培に悪影響が出ないよう牧草地の管理作業が必要で、経費はかかる」

大産地の不作で牧草価格が高騰

 酪農王国、北海道でも道北地方は有数の酪農専業地帯です。とくに牧草飼料は他の地域にも販売・出荷されるほどの国内有数の飼料生産地です。「ウチも余った牧草は販売し、大事な収入になっていたが、今年はこれも減収になる。でも牧草は自給・自家消費が基本の作物なので、わが家を含めて多くの酪農家が牧草は農業共済の対象に入っていない」と、渡邊さん。
 とくに被害が集中した低湿地の酪農家など、牧草が不足する酪農家は、町内でも比較的浸水被害が少なかった高台の酪農家から融通してもらい、購入しなければなりませんが、その費用も大きな負担になります。
 また、日本有数の牧草生産地の道北が豪雨被害に見舞われたことで、今まで同地域から牧草を購入してきた他の酪農地帯でも牧草価格が高騰することが予想されており、影響は道内各地に広がりそうです。

地域の基幹産業 酪農守る支援を

 豪雨被害は他にも。渡邊さんの牧場のある北宗谷農協の管内だけでも23戸の酪農家で施設への浸水被害があり、電気系統が故障したり、鉄砲水によるがけ崩れや道路陥没などが何十カ所にも及んでいます。このため今なお大型の農業機械などの移動にも大きな支障となっています。
 渡邊さんの牧場は、牛舎や自宅、牧草地の3分の2が町東部の高台地域にあり、はからずも豪雨被害は牧草飼料だけでした。しかしここ数年、輸入穀物が主原料の配合飼料価格が高止まりするなかで、どの酪農家にとっても自給飼料の不作は大打撃です。
 渡邊さんは、「この地域は酪農が基幹産業だが、酪農家の高齢化が深刻。酪農に限らず農家の所得補償制度がないなかで、自然災害にどう立ち向かうのかは、今後の農業の大きな課題だと思う。離農のきっかけとならないよう、今回の水害対策では農協や行政あげて取り組んでいるが、牧草の被害の補償など、国や行政にも対策を求めていきたい」と話してくれました。