日本有機農業研究会がシンポ開く 食と農の政策の在り方問う(2025年10月27日 第1672号)
「食権力」について藤原教授が講演
日本有機農業研究会(日有研)は10月14日、「シンポジウム2025 『令和の米騒動』と『百姓一揆』を根本から考えよう」をオンラインで開催しました。
食べ物を通じて社会を変えよう
(左上から時計回りに)藤原さん、天明さん、舘野さん、安田さん
京都大学人文科学研究所の藤原辰史教授が、「食べ物を通じて人を統治する在り方の歴史」について講演。今年9月に刊行された最新著書『食権力の現代史 ナチス「飢餓計画」とその水脈』の内容に触れながら、「食権力」という言葉を軸に「食べ物を通じ社会を少しでも変えていく」という試みを語りました。
「食権力とは何か」について藤原さんは、「私自身が考えた概念でもあり、歴史的に使われてきた言葉」として、「食の余剰と食の技術の集中を根拠として、人間および自然を統治・管理する力の束」だと解説。「食権力」の発動として分かりやすい事例は「穀物メジャー」だとして、「強大な資金で世界中の生産者から穀物を集め、世界中の消費者に売っていく。砂時計の形でイメージすると、真ん中の“くびれ”の部分がまさに食権力としての穀物メジャー。一手に集めて売り先や量、価格を決めていくことで絶大な権力を発揮する」と述べました。
同時に藤原さんは「大切なこと」として、「学校給食、生活協同組合や地産地消の取り組み、有機農業の実践もまた小さな食権力だ」と解説。「自分たちの食の在り方を決めていく『食の自治』もまた権力の行使だと言える。大きな砂時計の“くびれ”の下側を外から突き破り、小さな無数の『食の自治』という穴から直接消費者とつながることで社会を変えていける」と展望を語りました。
価値を共有し共生社会実現へ
シンポジウム後半では現場からの声として2人の有機農家が発言。
新潟県上越市の天明(てんみょう)伸浩さん(「星の谷ファーム」代表)は今年3月に東京都内で行われた「令和の百姓一揆」デモに参加し、「村なくして米なし」のプラカードを掲げました。その思いとして、「農業に限らず、自分たちの地域が衰退していく実態を強烈な不安として感じている」と発言。生産現場では大規模農家と、現状を何とか維持して地域を守ろうとする農家との格差が広がり、都市部でも格差が広がっていると指摘し、「1つの政策では解決できない。共生社会の実現に向けて自分たちに何ができるのか向き合う必要がある」と述べました。
栃木県野木町の舘野廣幸さん(「舘野かえる農場」、「民間稲作研究所」理事長)は、「令和の米騒動」の一番の原因は「農民自身が消費者と一緒に価格を決定できない社会にあるのではないか」と問題提起しました。米の価格がいくらなら良いのか、を考えたときに自身が作った有機米の提携価格の設定根拠を相手に伝えて納得してもらっていると解説。「農業の価値を食べ物としてだけで捉えず、広い意味での価値を消費者と共有できる社会を築きたい」と発言しました。
司会を務めた安田節子さん(「食政策センター・ビジョン21」代表)は、「米を増産し水田を守り、農家には農産物価格ではなく、生産費を基準とした直接支払いを行い、再生産を可能にすることが重要」とまとめました。

