フードテック、ゲノム編集食品の問題は?(2025年10月27日 第1672号)
多国籍企業による食の支配を許すな
遺伝子組み換え、ゲノム編集などバイオテクノロジー技術を使った食品に加え、いま新たにフードテックと呼ばれる食品開発が政府やベンチャー企業によって盛んになっています。ゲノム編集食品の問題点を改めて取り上げるとともに、フードテックとはどんなものか、いま焦点になっている技術を紹介し、そのねらいは何かを特集します。
巨大デジタル企業とアグリビジネスによる食料・農業支配が新たな段階へ
フードテックとは、「フード」(食)と「テクノロジー」(技術)を組み合わせた造語で、食の問題に最新のテクノロジーを活用することです。推進側は(1)世界人口の増加と食料危機、(2)生産性の向上と環境保護、(3)多様化する食への対応などをその目的としています。
ビル・ゲイツ氏サミットで暗躍
2021年に開かれた「国連食料システムサミット」では、農薬・化学肥料・種子、食品流通・加工など既存のアグリビジネスに加えて、巨大デジタル企業が農業・食料の分野に乗り出し、巨大多国籍企業による農業・食料支配が新しい段階に進みました。
世界のNGOがサミットの「黒幕」として批判したのが、巨大IT企業マイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ氏などのデジタル富豪です。
巨大デジタル企業+アグリビジネスの食料システム支配を強化するために(1)農家から種子、生産技術のデータを略奪し、独占する、(2)食料生産をハイテク化して農民を追い出し、土地を収奪する、(3)遺伝子組み換え・ゲノム編集と「合成食品」を推進する、(4)政府に圧力をかけ、大企業に有利な政策を導入させる--ことが議論されました。
これに対して、世界の農民や研究者らは「彼(ビル・ゲイツ氏)は人々を農場から追い出し、動物を追い出し、私たち全員に彼が100種類の特許を持つ人造肉と虫のタンパク質、遺伝子組み換えラボ(工場)から生み出される合成食品を食べさせたいと思っているのだ」と批判しました。
みどり戦略や、基本計画で推進
農水省は「みどりの食料システム戦略」のなかで、フードテックの推進をうたうとともに、今年4月に改定された「食料・農業・農村基本計画」のなかで、「地域の農業者、食品事業者をはじめ、観光やフードテック、IT・ロボット等を含めた幅広い関係者が連携・協調するための場の構築を推進する」と述べています。
それを具体化する「農林水産研究イノベーション戦略2025」では、「ゲノム編集、次世代タンパク質源の開発等の新たなバイオテクノロジーは、気候変動、食料問題、環境負荷の低減等の社会課題の解決と経済成長を両立するイノベーションとして期待が大きい」「タンパク質供給の可能性を拡(ひろ)げる植物性タンパク質や微生物を活用した食品(水素細菌や麹(こうじ)菌が生成したタンパク質源等の食品)の生産等のフードテックの研究開発を推進」するとうたっています。
民間企業と協力して「新たなバイオ産業」を育成し、家族農業の追い出しをあからさまに宣言しています。
代替肉
大豆などを肉に加工
原料は遺伝子組み換えも
大豆などの植物を原料にした、牛や豚、鶏などの動物性たんぱく質に代わるもの。大豆ミート食品などの人工肉が開発され、環境問題に加えて、健康志向の高まりもあって急速に普及しました。
通常の加工食品と同じく、原料の多くは輸入大豆が使われ、遺伝子組み換えであり、風味や歯ごたえを食肉に近づけるために添加物が多用されています。
アメリカの企業、ビヨンドミートとインポッシブル・フーズが先導し、大豆ハンバーガーなどで販売されています。
また、新たな動きとして、微生物たんぱくの開発(細菌を培養してそのたんぱく質を抽出、食品化する)や精密発酵(細菌を遺伝子組み換えで、特定の成分だけを生産するように改造。その細菌を発酵タンクで増殖させて、その特定の成分を作り出す。乳、母乳、卵たん白などを生産)が登場。アメリカでアイスクリームやチーズなどに実用化されています。
培養肉
細胞を培養し人工肉に
膨大なコスト、安全性未確立
培養肉
工場で家畜などの細胞を培養してつくり出す技術です。人工肉や細胞農業などと呼ばれることもあります。
牛や豚、魚などの細胞を培養して人工的に食肉化するもので、筋肉をはじめ、血管や血液、脂肪など複数の細胞を培養し、立体構造にしてつくります。食肉に近づけるために、他の食材や添加物を加えます。ステーキやすしのネタなどでの応用がねらわれています。
培養肉の最大の問題は、これまでまったく食経験がなく、新しい食品であり、食の安全性が確立されていないことです。さらに培養にかかる費用が高く、膨大なコストがかかります。
農家支援の予算こそ確保を
肥育牛農家 𠮷山優作さん(宮崎県小林市)
肉と呼べるのか疑問

培養肉は、工場で作られたものであり、肉と言えるのでしょうか。膨大なコストをかけて企業や一部の研究者が勝手に進めているものであり、食の安全上も味覚や食感上も不安だらけです。
何よりも、これでは農業の振興につながらないと思います。こんなことに予算をつぎ込むよりも、農家の経営を安定化させるための予算を確保した方が、多くの農家のためになるはずです。
食料自給率を向上させ農家数を増やすことにもっと力を入れるべきです。
昆虫食
せんべいやクッキーに
食経験乏しくアレルギーの懸念
コオロギせんべい
現在は主に昆虫そのものでなく、乾燥させ、粉末状にして、せんべいやクッキーなどに練り込んで食品化しています。最も多く用いられる昆虫はコオロギ、次いでバッタ、イナゴなどです。
昆虫は、世界でも各地で食用にされ、日本でも古来、イナゴや蜂の子などが伝統的な地域の食文化として定着し、貴重なたんぱく源になってきました。
しかし、伝統的に食べられてきたものとは異なり、現在では、バイオテクノロジーを用いた開発が盛んになっています。特にコオロギは、成長を早め量産化するために、ゲノム編集技術を用いた開発が行われています。食品としての経験が浅く、アレルギーやアナフィラキシーなどを引き起こすことが懸念されています。
この間、昆虫食を推進してきた企業(グリラス社、クリケットファーム社の親会社のインディテール社が自己破産)が相次いで倒産しています。
世界に広がるフードテック規制の動き
●イタリア 2023年11月 細胞培養肉などの細胞性食品・飼料の生産、販売、輸入の禁止法可決
●スイス 25年末まで「ゲノム編集」を含む遺伝子組み換え品種モラトリアム(猶予)措置
●米国カリフォルニア州メンドシーノ郡20年に「ゲノム編集」を含むすべての遺伝子操作作物の栽培を禁止する条例
●アメリカフロリダ州、アラバマ州 25年4月、細胞培養肉の流通・販売禁止
●ドイツ バーデン・ビュルテンブルク州 「ゲノム編集」作物禁止
食料の商品化を加速
環境や生物多様性からも不安
市民バイオテクノロジー情報室代表・天笠啓祐さん
フードテックの全体状況をみると、投資ブームが終えんし、急速に冷え込むと同時に先行きが不透明になっています。フードテックは、大学の研究者、ベンチャー企業が開発・投資し、大企業が大量生産して市場化を図る食料です。膨大なコストがかかり、環境面、生物多様性への影響も懸念されます。
これまで自然とのつながりで生産されてきた作物、魚、家畜と、それに基づく加工食品などとは根本的に異なる食べものです。企業による最先端の技術を用いた食料の商品化、新たな食の支配につながるおそれがあります。(7月18日、日本消費者連盟「食の安全講座」で)
対抗軸はアグロエコロジー
OKシードプロジェクト事務局長・印鑰(いんやく)智哉さん
フードテックに対抗するために、有機農業、アグロエコロジーなど環境を守る農業への転換が必要です。地域の農業・食を守る条例、種を守る条例、フードテックを規制する条例をつくることが求められます。学校給食を有機にし、ゲノム編集食品の表示を義務付けるなど食品表示を改善させ、地域認証や自主表示を進めることも解決策として有効です。(8月19日、オンライン学習会「急激に変わる食」から)
※アグロエコロジーとは(農民連『アグロエコロジー宣言(案)』から)
自然の生態系を活用した農業を軸に、地域を豊かにし、環境も社会も持続可能にするための食と農の現状を変革する方針であり、実践です。循環型地域づくり、多様性ある公正な社会づくりと民主的な意思決定をめざす運動です。
ゲノム編集食品 日本では開発ラッシュ
ゲノム編集トマト
ふるさと納税の返礼品にもなった
ゲノム編集トラフグ
ゲノム編集技術は、生物の遺伝子の遺伝情報を司っているDNAの特定の場所をねらい、酵素などを用いて切断して機能を失わせたり(ノックアウト)、切ったところに別の遺伝子を入れたり(ノックイン)する「遺伝子操作技術」のことです。これに対して、遺伝子組み換えは、生物の遺伝子に別の生物の遺伝子を入れる技術です。
現在、日本で急ピッチで進められているゲノム編集技術。農畜産物・生物にも応用が進み、現在9品目・品種が消費者庁に届け出され、4品目・品種が市場に出回っています。
ゲノム編集トマトは「シシリアンルージュ・ハイギャバ」として2021年9月に販売が開始されました。ベンチャー企業、サナテックシード社が開発したもので、高GABA(ギャバ)で血圧を下げ、リラックス効果があるなどとされます。
同年10月には、肉厚のマダイが、11月には成長が速いトラフグが販売開始になりました。食欲を抑える遺伝子「レプチン」を働かないように操作。満腹感がなくなり、よく食べるようになり、成長速度が約2倍になりました。飼育期間の短縮やえさの削減につながるとされています。昨年4月には成長の速いヒラメの販売が始まっています。トラフグと同様に、ゲノム編集技術によってレプチン受容体遺伝子を欠損させたものです。
市場には出ていませんが、届け出が完了しているものとして、トウモロコシ、ジャガイモ、ティラピア(魚類)があります。ほかにも魚類、植物、昆虫などで開発が盛んに行われています。
世論の力でゲノム編集食品を阻止
トマト苗の配布を阻止
トラフグの養殖場閉鎖
市にふるさと納税返礼品取り下げを求める
井口さん(左)=2023年2月14日
食品安全評価も不十分で、表示制度もないゲノム編集作物・食品。推進側は、遺伝子組み換え技術に代わるものとして開発に躍起になっていますが、ゲノム編集トマト苗の学校への無償配布の動きを、世論の力で阻止するなど、食の安全を守る市民の反撃も始まっています。
ゲノム編集の技術で魚の養殖をしている「リージョナルフィッシュ」(本社・京都市)が、京都府宮津市の養殖場(陸上)を閉鎖しました。この養殖場で生産されたトラフグとタイは宮津市のふるさと納税の返礼品となっていましたが、現在、受け付けを停止しています。
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1万人の署名を何よりの力に
宮津にゲノム編集魚の養殖計画が持ち上がってきたときから、市議会への請願など、中止を求めてきた地元の漁師、「麦のね宙(そら)ふねっとワーク」の井口NOCO(ノコ)さんの話
遺伝子操作ゲノム編集トラフグが宮津市のふるさと納税返礼品となってから約4年。販売したリージョナルフィッシュ社が撤退、同時に返礼品からは消えました。
取り下げを求める署名は1万人分を超え、全国の皆様からの後押しは何よりも力になりました!
ホッとしたのも束の間、他府県へゲノム編集魚の陸上養殖施設を移して事業の拡大、また広大な元宮津関西電力跡地に建設が予定されているサステナブルパークに再参入する話も出ています。
私たちはこの会社が宮津に来たのを全く知らされておらず、最後まで私たちの求めた住民説明会や懇談には応じていただけないままでしたが、全国からこの会社の動きをしっかり注視して、ストップをかけましょう!

