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多重危機の根源は共通 第3回ニエレニ・グローバル・フォーラム スリランカ・キャンディ(2025年10月27日 第1672号)

打開のカギは社会運動の連携強化にあり
今こそシステムの大転換を
ビア・カンペシーナは新たな貿易制度を提唱

「ミスティカ」(会議の前後に行う儀式)で
農的生活と運動の大切さを想起

通訳の助けも借りて多様な言語で討論

 国際農民組織ビア・カンペシーナなど世界の運動団体・市民団体の代表などが食と農をはじめさまざまな社会問題を話し合う「第3回ニエレニ・グローバル・フォーラム」が9月半ば、スリランカ中部のキャンディで開かれ、世界100カ国から700人以上が参加しました。
 9月6~13日まで開かれたフォーラムは、戦争、貧困、飢餓、気候、環境、貿易、極右・排外主義の台頭など深まる多重危機の背景には、多国籍企業の横暴を野放しにする新自由主義グローバリズムなど共通する原因があると指摘。それぞれの分野で活動する人々が手をつなぎ、「今こそ(土台にある)システムの大転換に踏み出す時」と訴えました。
 ビア・カンペシーナは、「食料主権に基づく新たな国際貿易の枠組み」の構築を呼びかけました。

幅広いテーマに挑戦

ほ場見学をする参加者

 「ニエレニ」はアフリカ北西部マリで差別に負けず農業で成功した伝説的女性農民の名前。この名前を冠したグローバルフォーラムはこれまで2度、それぞれ「食料主権」、「アグロエコロジー」をテーマにマリで開かれ、市民社会組織の間の理解を深め、運動の発展に大きく寄与しました。
 過去2回の会議では食と農が討論の中心だったのに対し、今回は、食料主権、アグロエコロジーに加え、民主主義と権利、「民衆の経済」の構築、医療、気候正義とエネルギー主権など、より幅広いテーマに挑みました。
 フォーラムでは情勢について、多重危機の深まりをもたらした多国籍企業や富裕層が主要国を牛耳りながら、生物・遺伝資源の私物化、土地・水などコモン(共有財)の収奪などによっていっそう支配を強化していることに警鐘を鳴らしました。
 デジタル情報や金融への企業支配、労働者の搾取強化にも警戒が呼びかけられました。
 さらに、アメリカのトランプ大統領が仕掛ける貿易戦争、日本を含む各地で進む極右や排外主義の台頭、パレスチナ・ガザでのイスラエルによる食料の武器化による飢餓の広がりなどにも批判が相次ぎました。

女性、若者の参加保障

 初めてのアジア開催となった今回のフォーラムには、農民、漁民、牧畜、農村労働者に加え、労働組合、環境、フェミニズム、反差別、医療など、80を超える社会運動の分野から参加。多様性を確保する努力の結果、参加者の60%が女性または性的少数者、全体の3分の1が35歳以下となりました。1次産業従事者、社会・環境正義を求めて幅広い活動をする人々が出席し、女性、性的少数者、若者の発言が保障されるフォーラムは「運動の中の運動」とも呼ばれます。

食料主権、平和、連帯を対置

 最後に読み上げられたキャンディ宣言は、土地や海の収奪やコモンの商品化、労働者の搾取、家父長制と差別の広がり、デジタル化と金融化について新たな抑圧の形式が作り出されていると批判。ガザやウクライナで起きている虐殺や戦争についても帝国主義や多国籍企業、腐敗国家の衝突の現れと指摘し、食料主権、エネルギー主権、平和、民衆の連帯、ジェンダー平等、社会正義を対置し、これらは人類の生存にとって不可欠な条件と位置付けました。
 社会運動の共同を強化するため、2026年から、帝国主義・戦争・飢餓の武器化に反対する国際デー、グローバル・ニエレニ・デーなどの国際行動日を設けることを提起。食料主権、反人種差別、フェミニズムについて共通の理解を深めるための政治研修プログラムを設ける必要性や労働組合との対話、農村と都市の働く人々の交流を強めることについても確認しました。

共通の政治課題

 また、社会運動組織の間の共通の政治課題の軸を設定。(1)民主主義と人権の構築と擁護、(2)平和と国際連帯の実現、(3)民衆のための経済の構築、(4)食料主権とアグロエコロジーの実現、(5)すべての人のための医療の確立、(6)気候正義とエネルギー主権の実現、を挙げ、11月10日からブラジルで開催される気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)に先立って開かれる民衆サミットの際に正式に発表するとしました。

新たな貿易の7本柱

 過去2回のフォーラムで食料主権、アグロエコロジーについての理解を醸成し、運動を積み上げて開かれた3回目のグローバルフォーラム。2018年に国連総会が採択した「小農の権利宣言」にはこれらを含め、食と農に関わる人々の権利が網羅され、2019年からは国連「家族農業の10年」が始まるなど、食と農を通じた社会変革の機運が高まる中で開かれました。
 ビア・カンペシーナは、今回のフォーラムを「新たな貿易の枠組みづくり」への飛躍のステップとしました。
 その柱として、(1)利益よりも人間、地域、生態系を優先、(2)すべての国が自らの食と農の政策を決定する権利、(3)食料輸送距離を短くし、市場を安定化させるため地域のサプライチェーンを優先、(4)小規模生産者への価格保障と所得補償、(5)ダンピング、アグリビジネスへの補助金、投機の違法化、(6)支配的貨幣への依存からの脱却、(7)土地、水、生物多様性、コモンズの保護--を挙げ、「我々が求めるのは細部の変更ではく、根本の転換だ」と強調しました。
 (写真はすべて第3回ニエレニ・グローバル・フォーラムのホームページから)