今話題の水稲直播は未来の米作りか?(2025年11月24日 第1676号)
(手記)直播生産者の私の経験から
北海道農民連書記 富沢修一(岩見沢市)
収量不安定で、除草剤多用も
発展途上の米作り技術
農水省普及進めテレビでも宣伝
種もみをまくドローン
「5000円出しておつりは数百円では高くてため息がでます」など、うなぎのぼりに米価格が高くなり、今年の新米は昨年より500円くらい値上がりし、毎日のように米のことがテレビ報道されています。
そして、もみを直接田んぼにまいて米をつくる直播(ちょくはん、またはちょくは)稲を作る農民が登場し、テレビのコメンテーターは「手間のかからない直播の米作りが増えれば米は安くなりますね」と、直播の米作りがこれからの米作りの中心になるようなことを言います。
農水省が「田植え不要の米づくりコンソーシアム」を設立し、節水型など乾田直播の普及・拡大を進めており、学習会でも「テレビでこれからの米作りは乾田直播といっていますが、どうなんですか」という質問がでるほど関心が広がっています。
直播を取り入れ、ドローンで播種
私は10年前に4年ほど直播で米を作った経験があり、昨年から年齢的に春の作業が大変になって妻の「体がもたないから直播にして」の一言もあり、苗を作る米作りをやめ、すべて直播稲に転換し、今年は初めてドローンでもみをまく方法を取り入れています。
直播は、水田に水を入れないで乾いたもみをまく「乾田直播」と、水を入れて土を練る代かきをした田んぼに芽出しもみをまく「湛水(たんすい)直播」の方法があり、それぞれ一長一短で、私は湛水直播です。
直播の米作りは年々増え続け、北海道全体で水稲面積10万ヘクタールのうち約6000ヘクタールくらいです。増えた一番の理由は「温暖化で暖かくなり、冷害の心配が少なくなった」からだと思います。
作付けの多くは交付金の対象
私が所属するJAいわみざわの水稲直播は全道の約2割で、農協担当者によると2024年の水稲直播作付け内訳は、主食は2割弱で、多くは交付金対象作付け(飼料用米、加工用米、輸出米、ホールクロップサイレージなど)です。私も24年産は専用品種で飼料用米を作付けし、今年は飼料用米の交付金が減り、収量に応じた交付金を満額得ることが難しくなったため品種も変え加工用米です。
直播は移植より生育期間が短いため、北海道の「ななつぼし」「ゆめぴりか」は直播には適せず、一方収量が安定した直播専用品種が少なく、移植稲よりも収量が少ない弱点があり、経営安定のために交付金対象の作付けが多くなります。
今年は天候が悪く土壌条件も良くなく、播種時期も遅れたためか「収量が少ない」という声が多いです。また移植稲は1、2回の除草剤散布ですが、直播稲は2、3回の除草剤散布が必要で、乾田直播では播種直後にグリホサート系除草剤を使うなど、「直播は経費かからない」とはいえません。
いろいろな事情と要因で直播の米作りは増えると思いますが、苗を植えるいままで米作りの方が安定しています。「直播はまだまだ発展途上の米作り技術」で、直播が米作りの主役になるとは思えません。
直播が増えたのは「500万円の田植え機を買って安い米作りはできません」と、低米価を押し付けてきた自民党農政の結果で、移植でも直播でも価格保障、所得補償で持続する水田農業を守る農政への転換が必要です。
ただ高齢農民が米作りを続けることができる有力な方法であることも現実です。

