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米作りを続けるのは、僕にとっての“百姓一揆”(2026年01月05日 第1681号)

日本アカデミー賞 最優秀作品賞を受賞   
新春対談
映画監督 安田 淳一さん 
農民連会長 長谷川 敏郎さん
1等米判定にアカデミー賞と同じ感動
農家を応援する所得補償を

 2024年公開の映画「侍タイムスリッパー」が大ヒットし、「第48回日本アカデミー賞」最優秀作品賞を受賞するなど、映画界に旋風を巻き起こした安田淳一監督。米作りを描いた映画「ごはん」(17年公開)でもよく知られている安田監督は、京都農民連の会員で城陽市で農業者として米作りもしています。安田監督と農民連の長谷川会長が映画、農業、農政について語り合いました。

田んぼを守りたい責任感が原動力に

長谷川会長(左)と安田監督

撮影中の安田監督

 長谷川 日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞おめでとうございます。
 安田 ありがとうございます。「侍タイムスリッパー」がヒットしたおかげで、各地で「ごはん」のリバイバル上映をしてくれてとてもうれしく思っています。
 長谷川 「ごはん」を製作した経緯についてお話しください。
 安田 祖父や父(安田豊さん、前京都農民連会長)がずっと田んぼをやっているのを見てきたし、僕自身も他の仕事をやりつつ繁忙期には米作りを手伝っていました。ある日ふと、「もし、おやじに何かあったら、残された田んぼはどうなるんやろう。おれ一人では、よう作れんぞ」と思ったんです。たまに手伝ってはいたけど、田んぼの管理や米作りまでは教えてもらっていなかったから。同時に、もしそうなってパニックになったら、これを映画にしたらおもしろいなとも思いました。
 長谷川 まさに今の日本農業が直面している問題ですね。11月28日に農水省が農業の現状を調査した農業センサスを発表しましたが、個人経営の農家は5年前よりも24万8千戸(23・9%)減少しました。このままでは、あと5年後に個人経営農家はいなくなることになります。
 安田 父も京都市役所で働きながら米を作る兼業農家でした。若い頃から他の農家が面倒を見切れない田んぼをどんどん引き受けて、最盛期には6ヘクタールくらいやってたんですよ。それだけの田んぼを管理するだけでも大変やし、経営的にも厳しい。うちの場合でも、30キログラムの米を作ると数百円から1000円くらいの赤字で、やればやるほど損失が膨らんでいきますが、それでもうちには大きな機械もあるし、人助けになるんやったらということでやっていたようです。
 23年に父が亡くなり、少しずつ田んぼを地主さんに返して、今は自分たちが持つ1・5ヘクタールだけで米を作っています。返した田んぼの半分は、耕作放棄地になってしまっていると聞いています。
 長谷川 私も1・2ヘクタールで米作りをしています。先代から守り続けてきた田んぼを守り、次代に引き継がなければならないという使命感をもっています。
 安田 僕はこれまでいろんな商売をやってきて、全て黒字化してきました。映画も、「侍タイムスリッパー」で黒字化できました。ただ、米作りで利益を出すのは、映画以上に難しいと感じています。映画がヒットしたから、しばらくはなんとか農業を続けられるけど、実際には米作りだけでは難しいと感じています。それでも、あえて「ごはん」で米作りについて語るのは、農家の現状を少しでも知ってほしいからです。
 僕の父親ぐらいの世代の人が苦しいながらも続けていること、ある種の使命感のようなものを持ってがんばっていることの意味を一人でも多くの人に考えてもらいたいからなのです。

市場原理一辺倒は農業と相いれない

 長谷川 農業は政府が進めるような、新自由主義的な農業、大規模化・集約化・スマート農業だけでは解決にならないですね。
 安田 僕は、米作りを市場価格からだけでしかみないことに違和感をもっています。お金のことだけを考えれば、農業をやめて田んぼを売って、機械も処分してしまった方がダメージは少ない。それでも苦労して米作りを続けるのは、米と農地を守りたいという使命感、責任感からです。自分にとっては、個人的な百姓一揆です。
 長谷川 今の米騒動を通じて、消費者に「やっぱりお米は大事だね」という機運が広がっています。その結果が「令和の百姓一揆」です。群馬で行われた学習会とデモ行進に参加してきました。群馬県で実施されたことで、過半数の都道府県に広がりました。農家と消費者、市民が連携し、立ち上がったことは歴史的なことです。農家も消費者も主権者として自分が何をつくるか、何を食べるかを選択するために一致して行動する。この流れをさらに広げていきたいと思います。
 安田 農業は市場原理だけに任せてはいけないと思います。国がちゃんと再生産可能な価格で買い取り、消費者には安く売る。食料安全保障、食料自給率向上のためにも大事なことです。政府は農地を大規模農家に集約させようとしていますが、大規模農家も小規模農家も「日本の米を守りたい」という使命感は一緒。いま小規模農家を保護することは、後継者育成という意味でも必要なことです。
 長谷川 日本の農業、農地を守るために、農家を応援する。つまり所得補償をしていくことが求められます。令和の百姓一揆のスローガンにもなっています。その結果、昨年の参議院選挙では、ほとんどの野党が所得補償実現を公約に掲げました。2026年も実現に向けてがんばっていきたいと思います。

田んぼで感じる自然の癒しと喜び

 安田 そういう意味では選挙が大事で、選挙で政治を変えなければならない。ところが、SNSなどで政治的意見を発信すると、必ずといっていいほどアンチが批判のコメントを寄せてくる。選挙制度も時の権力の側が、自分たちの都合のいいようにルールを変え、多額の企業献金で大企業に都合のよい政治をやろうとしています。
 長谷川 相手が決めた土俵、ルールという意味では、日本の農業もアメリカが決めたルールで追い詰められてきました。戦後、アメリカの小麦、大豆、トウモロコシを買えと迫られ、牛肉・オレンジの輸入自由化などで「ものをつくるな」という農政が一貫して行われてきました。それでも米農家がこれだけ残っているのはすごいことです。これは使命感だけでなく、農業の魅力だと思うんです。監督は「ごはん」のなかでどんなシーンが好きですか。
 安田 映画では、田んぼの四季の移ろいを出したいと、4年かけて撮影しました。会長が言うように、使命感だけで、農家みんなが嫌々やっているわけではなく、喜び、やりがいを感じながら米を作っているんだと思います。
 僕自身も、米を作っているとき、田んぼで感じる自然の営みにふと癒されることがあります。空の青さや、トラクターが土をかき回すシャクシャクという音、鳥の羽ばたき、さらさらと舞う風。また、稲がすくすくと育ち風にそよぐ音や、秋になって色づく稲穂の実り。これらは米を作っているからこそ感じられる喜びだと思います。
 長谷川 (自らの田んぼの画像、映像を見せながら)私の農場でも里山から薪を取ってきてボイラーで暖房、給湯を行い、牛も飼って、牛ふんのたい肥で米作りをしています。田んぼではさまざまな生き物が生態系のなかでそれぞれの役割を果たしながらうまく循環しています。
 安田 僕もジャンボタニシに悩まされながらも、昨年、農協に出した米が1等米でした。アカデミー賞を受賞したときと同じぐらいうれしかった。なぜ1等だったのかはわかりませんけど(笑い)。

米作りも映画作りも、励まし合って

 長谷川 ものづくりで仲間と励まし合いながら、いいものをつくる。一番元気がでますし、そういう点では米作りも映画も同じですね。
 安田 さきほど主権者という話がでましたが、父の3回忌のとき、父が好きだった映画「同胞(はらから)」(1975年公開、山田洋次監督)を上映しました。
 過疎の村で青年団が劇場公演を計画し成功させるまでを描いた作品ですが、山田監督自身がメッセージ動画を寄せてくれました。
 「いまこの作品が上映されることをうれしく思う。民主主義は面倒で手間がかかるが、しっかり学んで守っていかなければならない。お父さんには会ったことはないが、この映画の上映で人柄がしのばれる」という内容でした。主権者教育が本当に大事ですね。
 長谷川 次回はどんな作品をつくる予定ですか。
 安田 戦国時代末期に、農民が活躍する脚本を書きました。真の主役は百姓です。
 武士の時代と言われていた頃も、8割は農民だった。時代を動かしたのは確かに武士かもしれないが、歯を食いしばって地域を守ってきたのは百姓なのだから、百姓であ
ることをもっと誇りに
思ってほしいと思います。
 長谷川 次回作を楽しみにしています。今日はありがとうございました。


 プロフィル
 安田淳一(やすだ・じゅんいち)

トラクターを操る安田監督

 1967年、京都府生まれ。大学卒業後、さまざまな仕事を経てビデオ撮影業を始める。2014年に「拳銃と目玉焼」で映画監督としてデビュー。2作目の「ごはん」は、38カ月続くロングヒット作に。23年、父の後を継ぎ、米作り農家となる。単館上映から始まった「侍タイムスリッパー」が25年、「第48回日本アカデミー賞」最優秀作品賞などを受賞。

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