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ジェンダー平等が世界の食料問題解消の力に 農業・食料支える女性にスポットライトを(2026年01月12日 第1682号)

2026年は女性農業従事者の国際年
FAO(国連食糧農業機関)
駐日連絡事務所 所長
日比絵里子さん インタビュー

日比絵里子さん

米を収穫するベトナムの女性農民
©️FAO/HoangDinhNam

在来種のニンジンを収穫するシエラレオネの
女性野菜協同組合の生産者
©️FAO/SebastianListe

 --2026年は国連「女性農業従事者の国際年(以下、国際年)」です。その意義と目的を教えてください。
 「国際年」は、農林水産業だけでなく流通や加工など食料システムに関わるすべての女性を対象にしています。
 「持続可能な開発目標(SDGs)」では、2030年までに飢餓と栄養不良をなくすことが目標でしたが、2025年7月現在で世界の飢餓人口は6億7300万人、世界人口の8・2%もいると推定され、11人に1人が飢餓に直面しています。また約26億人、3人に1人が栄養バランスの取れた食生活ができていません。その背景にあるのは、気候変動や異常気象、紛争、そして経済ショックです。
 こうした状況への対策として注視されているのが、ジェンダー平等です。
 女性はいま、農業や食料システムのなかで大きな貢献をしているにも関わらず、さまざまな格差や障壁などに直面し、本来の力が発揮できていません。この農林水産業や食料に関わる女性たちの持つ力や役割にもっとスポットライトを当て、少しでも世界の飢餓人口や栄養不良に解決策を出していこう、というのが「国際年」の根底にある思いです。そして男女格差を解消すれば、全体として食料生産性の向上につながり、これらの問題解決に貢献できることを、世界に知ってもらいたいのです。
 --ジェンダー平等の推進が、飢餓解消の力になるのでしょうか。
 食料の生産、流通、加工、そして消費者までという食料システムのなかでは、多くの女性が雇用されています。2021年時点で、世界で働く女性の41%が農林水産業をはじめ食料システムのどこかで雇用されている状況です。
 それにもかかわらず、女性たちは小規模農業だったり、土地所有権が不安定だったり、資金調達が男性に比べて不利だったり、温暖化による異常気象に対処する新しい技術が開発されても、女性は利用しにくいなどの不利に直面しています。
 また農業や食料システムの女性従事者の賃金も男性に比べて低く、FAOが2023年に発表した報告書では、世界全体平均で、男性を100円とすると女性は78円です。
 こうしたジェンダー格差を解消すれば、世界のGDP(国内総生産)を1兆ドルも押し上げることができ、さらに4500万人の食料不安を軽減できると推計しています。
 --家族農業での女性の困難と役割についてはどう考えますか?
 先程の23年発表のFAOの報告書を見ても、どの国でも女性は介護や家事、育児などの無償労働でも多大な負担を背負っています。とくに日本はこの数値が高くて、男性を1とすると女性は4・95、つまり約5倍もの無償労働を担っています。
 またこの報告書では、気候変動が男性以上に女性の労働負荷を増大させ、収益を減少させていることも明らかにしています。これは革新的技術を利用できなかったり、必要な投資を受けにくいなどのしわ寄せが、女性たちに労働負荷としてかかっている、ということだと思います。
 家族農業に特化した女性労働のデータはなかなかありませんが、家族農業の場合は、無償労働や細かい農作業の負担が女性たちに大きく影響するのは、想像に難くないのではないでしょうか。
 --今後の世界と日本の農業・食料の課題は?
 食料価格高騰がニュースになる中で、日本では米不足をきっかけに国民的に農業や食料安全保障への関心が高まり、重要な時期にあると思います。また、かつては「対岸の火事」だった食料不安が、ウクライナ危機やコロナ禍で、自分たちの側で起こっている火事だという意識も強まっているのではないでしょうか。
 農業人口が高齢化し、少なくなっている中で、持続可能に生産を続けられるかも課題になっています。
 日本でも、世界各国でも共通だと思いますが、とにかくリスク分散が重要です。貿易や供給国などこれまでのように「一つ」のやり方に頼ってはいられません。農林水産業や食料の分野は、エネルギー問題や、為替動向などに非常に大きな影響を受けてしまいます。農林水産業の中だけで考えずに、国全体の政策における農業分野の重要性を議論していくことが重要だと思います。