食糧法改悪、「水田政策見直し」の行き着く先は ビッグてい談(2026年02月09日 第1686号)
米と農業 大いに語る
東北大学大学院 冬木 勝仁教授
新潟大学 伊藤 亮司助教
農民連 長谷川敏郎会長
食料法「改正」は水田・稲作の崩壊 伊 藤
「水活」は国の米転作・減反政策 冬 木
政府に「水活」改悪やめよと要求 長谷川
討論する(左から)長谷川会長、(一人おいて)冬木教授、伊藤助教
衆議院選挙がたたかわれるなか、投票日(2月8日)が近づくにつれて、食料・農業問題も争点に浮上しています。いまの農政に何が求められているのか。農民連の長谷川敏郎会長、東北大学大学院の冬木勝仁教授、新潟大学の伊藤亮司助教の3者で米問題を中心に緊急に話し合いました。
価格保障と所得補償の重要性
長谷川 農民連は1月22、23の両日に全国委員会を開き、今後1年間の組織づくりとたたかいの方向性について議論しました。衆議院選挙のなかでも、食料自給率の向上、農家への所得補償と価格保障制度の確立のために、ブレずにがんばる政党を大きくすることが重要だと意思統一しました。今日はみなさんに米問題を中心に、農政にいま何が求められるのかについて話し合っていただきたいと思います。
冬木 米を対象にした支援は、農家の経営が成り立つ、営農への支援であるべきですが、政府の支援は、スマート農業、大区画化で合理化、効率化を図り生産性を向上させるという側面が強くなっています。これは政策的なすり替えだと思います。一昨年改定された「食料・農業・農村基本法」では「食料安全保障」が定められましたが、改めて「食料安保」だけでいいのかが問われていると思います。これは「消費の側からみて食料がどう供給されるのか」ということであって、大事なのは「食料主権」であり、生産する側の主権、つまり生産者が主体的に自分たちの意思で生産することが重要です。今回の米騒動で明らかになったのは、生産がちゃんとできないと供給もできないことがはっきりしたことです。
長谷川 消費者が、生産の重要性を認識したという点では、昨年、「令和の百姓一揆」が全都道府県の約半数に広がり、生産者も消費者も「農家に所得補償を」と声をあげました。
冬木 生産者支援の枠組みはどんなものがいいのか。これは、以前の民主党政権のときの「戸別所得補償」の弱点でもあるのですが、所得だけを補償しても価格を何とかしないと制度がもたない。価格支持、価格を安定させたうえでの所得への補償が必要になります。世界でも、価格支持と所得補償の組み合わせが一般的です。そのためには、備蓄も大量に確保していなければならない。しかし、日本は、価格を市場に委ね、生産者の負担で減反(生産調整)を強要しています。
食糧法の改悪は政府の責任放棄
伊藤 確かに生産者の所得だけを補償しても限界がありました。その一つの現れは、所得補償が値引きの原資になってしまっていたことです。価格と所得を保障し、適正な価格形成のもとでこそ、生産者も消費者も流通業者も安定した生活を送ることができます。その点、衆議院選挙後の通常国会で議論される食糧法「改正」は、「水田・稲作の崩壊」と言われますが、その言い方は核心をついていると思います。今回の改定は、危機をテコにした小ずるい改悪で「生産調整」をかなぐり捨て、国民、農民に「勝手に生き、勝手に死ね」と言っているに等しいと思います。本来は、政府の責任を位置づけなければならないのに、逆方向を向いています。高市首相や鈴木農相が「需要に応じた生産」と言うのも、生産者に自己責任を押しつけ、政府は何もしないというものです。米が足りないときは備蓄米を市場に放出し、過剰なときは買い入れなければ、食料の安定供給など図れるわけがありません。さらに石破前首相が主張していた「農地の集積・集約、大区画化、スマート農業」「輸出の抜本的拡大」も大問題だと思います。
長谷川 “増産して輸出”は問題ですね。輸出先の国は米を食べる国で、そこには稲作農民がいます。その国の稲作農民をつぶしてまでの輸出でいいのかが問われます。米に頼らざるをえない今の構造、麦、大豆、トウモロコシへの支援が不十分なことが問題なのです。昨年、財政制度等審議会(財政審)は 米・水田政策のあり方をまとめ、水田を麦・大豆・飼料用作物などに転作した場合に10アールあたり3万5千円を交付するなどの支援を行う「水田活用直接支払交付金」制度(水活)をやめて、作物ごとの生産性向上をめざす農家への支援に限定し、「大区画化、スマート技術の活用、飼料用米中心の生産を見直し水田政策から切り離すこと」などを提言しています。
農家支援でなく企業のための改悪
冬木 歴史を振り返ると、なぜ米に支援が集中したのかを考えなければなりません。土地利用型の他の作物は低価格で輸入自由化されるようになり、それでは収益が成り立たない状態に追い込まれたことが大問題なのです。生産調整のための転作、つまり米をつくらないことによる振興策で麦、大豆、トウモロコシがある。そういうマイナスの振興でなく、国民の食料の確保という観点からの振興策が必要です。「水活」はまさに国による米の転作・減反政策そのもの。ところが今になって、財務省が「水活」を攻撃するのは、それがなくなれば、補助金を出す予算上の根拠がなくなるからです。
農業問題は党派を越えた取り組みを 伊 藤
政治右傾化を食料・農業問題で反撃を 冬 木
たたかいを現場で広げるのがカギ 長谷川
農民連 運動と組織づくりで前進を
長谷川会長 冬木教授 伊藤助教
長谷川 私たちは財務省に対して、水活制度の改悪をやめよと要求してきましたが、財務省は聞く耳をもっていません。
冬木 政府の水田政策の一番の問題は、水田の基盤整備を進めることやスマート農業など効率化することだけが、主要政策になってしまっていることです。高市首相は「国土の強じん化」を盛んに言いますが、そこが政府の政策の基本になっている。こうして土木予算は確保され、金の行き先が企業になり、逆に農家への支援はなくなっていきます。
伊藤 まさに水田・稲作の破壊だと思います。大学の現場では、「大区画化、スマート技術の活用」のための研究が盛んに行われ、研究者が先端技術の企業と連携すれば、「実証実験」の名のもとに補助金がでるしくみがつくられています。しかし、1年前に新潟市内の農業法人を対象に私が行ったヒアリング調査・アンケートでは、多くの企業が多額のメンテナンスと投資が必要になり、スマート農業に違和感をもっていると答えていました。スマート農業が農業・農村の救世主であるかのようにマスコミなども宣伝していますが、一方で、本当の意味での農業・農村の振興に予算が使われず、水田政策が切り捨てられていると思います。
長谷川 その総仕上げが、食糧法の改悪であり、27年度からの水田政策の見直しだと思います。農水省は25年産米を買い入れず、見せかけの“じゃぶじゃぶ”を作り出して、米を減産しようとしています。
農業・食料問題は労働者・消費者の問題
冬木 本当に“じゃぶじゃぶ”だったら価格が下がっているはずです。本当はどうなのかをよく考えなければならない。米は主食だからこそ、必ず一定の量の消費があります。所得階層によって、米の位置づけが異なっており、低所得者ほど比較的安価にカロリーが摂取できる米を必要としています。
伊藤 食生活全体をみても、低コストで食べられ、体を動かすには効率がいい米の食品としての優位性が示されていると思います。それに比べて麦は円安のもとで、輸入麦加工製品に割高感がある。その反動で米の消費も増えているのだと思います。そこに潜在的な米の不足感があり、消費の手堅さもあって“じゃぶじゃぶ”ではないと思います。政府が、その最後のとりでの米の安定供給を壊そうとしているのは大問題です。
長谷川 いま低所得者層が増えていますが、問題なのは高い米ではなく、低い賃金、年金で、主食が食べられないところまで追い込まれていることです。
冬木 私は、以前から、「国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会」(食健連)の運動で、労働組合や消費者団体に、「食料問題は労働者の問題だ」と繰り返し言ってきました。この状況のなかで、農業・食料問題をよく討議してもらい、わがこととして考えてもらうチャンスだととらえています。
伊藤 注目しているのは、えちご上越農協が、稲作のコスト調査を行い、一定の米価が必要だということを可視化する動きです。「米1俵つくるには、これだけのコストが必要」という現場情報を発信していくことで、国民合意をつくることになります。
冬木 自分たちが食べている米にいくら払えばよいかを説明していくことが大事です。米の適正価格はいくらなのか、私の地元の河北新報が行った調査では、宮城は全国より高めです。より現場に近い方が、生産者の実態を直接聞くことができ、それをリアルに伝えていくことができるのです。
長谷川 地方の農協の動きには注目しています。食健連の農協訪問でも、多くの農協で、農政の問題点を共有し、私たちの要求と一致できています。現場で農協・農業団体との共同を大いに進めていこうと思っています。
冬木 政府の水田政策と同時に、今後気を付けなければならないのは輸入米です。新「基本法」でも、輸入の位置づけが高くなっています。調べてみたら、25年から、ミニマムアクセス(MA)米の枠外で、1キロあたり341円の関税を支払った民間業者の米輸入が激増しています。こうした輸入ルートが確立してしまったことに危機感を持たなければなりません。
日本の右傾化のもとでの農業改革
長谷川 政府の財政制度等審議会も、政府備蓄米の削減とあわせて、緊急時にはMA米を主食に回すことを要求しています。財政審のねらいは、アメリカ産トウモロコシに依存した輸入飼料依存体制を永続化させるとともに、米危機に乗じて国産米を外米に置き換え、大軍拡の財源を確保するために米と農業を犠牲にするもので、飢餓を進める提言です。
冬木 日本全体の右傾化のなかに農業政策も位置付けられており、食料供給困難事態対策法などは有事立法的な施策の一つです。
伊藤 緊急事態法の「イザというときはイモをつくれ」も、国による自治体の主権制限という地方自治法改悪と同様に、農家・国民の主権制限という側面をもっていると思います。自民党と日本維新の会が連立政権合意で示したように、将来は、憲法を改悪して、緊急事態条項を盛り込もうというのと同じ流れです。
冬木 宮城の地元の「みやぎ農協人九条の会」の事務局長は、元宮城県農協中央会の幹部です。彼が言うには「昔は全政党に要請に行っていたが、今は自民党しか行かない。農政運動の視野が狭まってしまったことが嘆かわしい」とのことです。しかし、現場では水田農業に対する危機感を深刻に受け止めている。地域の農協への働きかけも必要で、危機を実感している人たちとの共同を進めてほしいと思います。
春の大運動と衆議院選挙での奮闘を誓う
長谷川 最後に農民連へのメッセージをお願いします。
冬木 繰り返しますが、食料・農業問題は、労働者の問題で、安定的に食料が手に入り、バランスのとれた食事をすることが大事です。米騒動で農業への関心は高まっています。政治が右傾化するもとで、食料・農業問題で反撃することが右傾化に歯止めをかけることになります。現場の状況をリアルに伝え、国会での論戦に反映させてほしいと思います。
伊藤 これまで労働問題や反原発、平和問題に取り組む人たちにとって、農民運動は小さく扱われてきましたが、いま関心が高まっています。農業・農村問題は本来、党派を超えて取り組める土台があり、さまざまな問題を結びつける役割を担っています。新聞「農民」でも他のメディアが伝えない現場の状況を正確に伝え、運動に反映させることを期待しています。
長谷川 現場でのたたかいをどう広げるかが大きなカギです。春の大運動と衆議院選挙で奮闘し、運動と組織づくりで前進を勝ち取りたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

