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日本の畜産業を守る砦、と畜場・食肉処理場に国・県の支援強化を(2026年02月23日 第1688号)

さいたま市場の“廃止”で表面化する食肉処理場の老朽化と対策の遅れ

さいたま市食肉市場の存続へ国の支援強化を求めて、農民連は1月16日に農水省に要請を行いました

 昨年11月に、さいたま市が公設・公営の食肉中央卸売市場を廃止する方針を発表し、市場関係者のみならず、多方面に大きな波紋を呼んでいます。この問題について、養豚農家で群馬農民連副会長の上原正さんに寄稿してもらいました。

〈寄 稿〉 下仁田ミート(株) 上原 正(安中市) 群馬農民連副会長

 私の所属している下仁田ミート(株)は、群馬県内の2農場で母豚1500頭の一貫経営を行い、年間で3万頭強の肉豚を出荷しています。
 群馬県内の2つのと畜場に出荷し、枝肉を持ち帰り、自社で部分肉にカットし、県内4店舗で卸・小売りを行っています。一部は茨城県中央食肉公社に生体で出荷し、長野県の業者にも枝肉で販売しています。

家畜を食肉にするには、と畜場が不可欠

 家畜(牛、豚、馬、めん羊、山羊)を食用に供することは、「と畜場法」で規制されており、と畜場が必要不可欠です。2本足の家きん(鶏、あひる、七面鳥など)は「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」で規制された食鳥処理場を経由しないと食肉にはなりません。
 と畜場法に基づき、都道府県知事の権限でと畜検査員(獣医師)が1頭1頭、疾病検査を行い、食肉の安全性を確保しています。

「市場廃止」ニュースで畜産関係者に激震走る

 昨年11月に新築移転予定であった「さいたま市食肉中央卸売市場・と畜場」を、設置者のさいたま市が国や県にも事前相談なしに廃止の方向性を決定したというニュースが流れ、畜産関係者、と畜場関係者に激震が走りました。(詳細は新聞「農民」1月26日号を参照)。
 埼玉県には現在6カ所のと畜場がありますが、3割以上のシェアを占める県内最大規模のと畜場が廃止されてしまいます。

と畜場廃止は埼玉県だけの問題ではない

 と畜場廃止は埼玉県だけの問題ではありません。全国の食肉処理施設の老朽化が深刻です。
 築30年以上の施設は現在、全国で77カ所に上り、47・5%を占めます。今後、と屠場廃止問題は全国にも波及します。
 群馬県では、かつてはほとんどの市にと畜場がありましたが、数年前には4つに減り、法律の改正によりHACCP(※ハサップ=別項参照)に対応できない老朽化したと畜場は廃止され、現在は玉村町の「(株)群馬食肉卸売市場」(1日あたりの処理頭数が全国一の3000頭)と「高崎食肉センター」の2つに減少しました。
 ※HACCP=1960年代にアメリカの宇宙食開発で考案された衛生管理の手法。その後世界中に広がり、現在では国際的な食品安全管理の標準とされているほか、日本でも2021年からすべての食品等の事業者に義務化されている。

市場廃止で乳牛の持ち込み先がなくなる

 さいたま食肉市場が廃止されると最も困るのが酪農家です。
 同市場の乳牛の年間と畜数の9割以上が県外からの乳牛であり、特に栃木産が約4割、群馬県と茨城県の乳牛も約2割を占めています。乳牛をと畜できると畜場は限られているため出荷先を失ってしまいます。

長野県でも老朽化でと畜場が廃止予定

 隣の長野県には、現在松本市と中野市に2つのと畜場がありますが、松本市の「(株)長野県食肉公社」は築61年が経過し、2028年3月末で廃止が決定されています。中野市の「(株)北信食肉センター」だけでは処理できません。
 松本市とさいたま市のと畜場が予定通り2028年で廃止となった場合、他県で受け入れることができるか疑問です。仮にできたとしても長距離輸送で運搬コストが増加し、ストレスで肉質が低下する心配があります。また疾病が発生した場合には県をまたいでの移動制限がかかる場合もあります。

取引基準を作る市場の一つがなくなる

 豚肉の取引価格は全農建値(たてね)である関東三市場(東京市場、さいたま市場・横浜市場)が基準となっていますが、さいたま市場が廃止になれば、その一つがなくなってしまいます。今後、基準を2市場で出すとなった場合、価格の変動が激しくなってしまう恐れがあります。群馬や他市場を含めるのかは、まだ決まっていません。

食肉処理場新設に対する国の補助金の増額を!

 1月17日付日本農業新聞の論説によると、「『食肉流通構造高度化、輸出拡大総合対策事業』には21億円を計上し、再編整備を後押しする」とありましたが、いま廃止が問題となっているさいたま食肉市場移設でも453億円が必要と試算されています。金額が少なすぎます。
 しかも同事業では採算ベースとして1日当たりの処理頭数が豚換算で700頭も必要とされる厳しい条件となっています。実態に応じた支援が必要です。

市で運営できないなら県や国で運営存続を

 さいたま市は、廃止の理由の一つとして「市内の畜産農家が少ない」ことをあげていますが、それならば国や埼玉県で補助金・出資金を出して運営をすれば良いと思います。「群馬県食肉卸売市場」の株主は、全農、農畜産業振興機構、群馬県、玉村町、佐波伊勢崎農協、JAくみあい飼料、群馬県食肉連、群馬県家畜商などで構成されています。

国はと畜場の運営に責任を持て!

 2020年の「卸売市場法」の改定により、中央卸売市場の廃止が大臣の「許可」から「通知」のみで可能となってしまいました。これもさいたま市場廃止方針が出された原因の一つと市は説明しています。
 国・県・市町村が責任を放棄し、民間任せにしようとしています。畜産業と食肉の安定供給を守っていくためにも公設・公営の卸売市場の存続がどうしても必要です。