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日本の水田・稲作つぶしの総仕上げ(2026年03月23日 第1692号)

食糧法「改定」の問題点は?

食糧法第2条
 「政府は、米穀の需給及び価格の安定を図るため、米穀の需給の適確な見通しを策定し、これに基づき、整合性をもって、米穀の需給の均衡を図るための生産調整の円滑な推進、米穀の供給が不足する事態に備えた備蓄の機動的な運営及び消費者が必要とする米穀の適正かつ円滑な流通の確保を図るとともに、米穀の適切な買入れ、輸入及び売渡しを行うものとする」

食糧法第2条2項
 「政府は、前項に規定する生産調整の円滑な推進に関する施策を講ずるに当たっては、生産者の自主的な努力を支援することを旨とするとともに、水田における稲以外の作物の生産の振興に関する施策その他関連施策との有機的な連携を図りつつ、地域の特性に応じて、これを行うよう努めなければならない」

 

 政府は今国会で主要食糧法の改定を進めようとしています。2025年12月に農水省が発表した「食糧法見直しの方向について」は、米の安定供給等実現関係閣僚会議(25年11月28日)ですでに了承済みです。
 政府のねらいは、(1)「生産調整」の用語を削除し、水田活用直接支払交付金を廃止すること、(2)「需要に応じた生産」を明記し、政府は水田政策から撤退し、米の過不足が生じても原因は生産者が悪いという自己責任の押し付け、(3)政府備蓄米制度を解体し、民間備蓄とMA(ミニマム・アクセス)米で代替する--というとんでもない中身になっています。

 

生産調整の規定を削除

需要に応じた生産の義務化明記

 農水省は、「食糧法に、生産調整の文言が存置(生産調整方針の認定を規定)しているが実態は形骸化しているので、その規定を削除する。政府は需要に応じた生産を促進し、生産者は需要に応じた生産に主体的に努力することを法律で義務付ける」としています。
 主要食糧法は、1995年にWTO(世界貿易機関)協定受け入れのために、食糧管理法を廃止して米の輸入自由化のために作られた法律です。それでも当時の世論を反映し、2条では、国民への米の安定供給のために生産調整・備蓄・輸入の3点セットを明記しました。しかし、米穀の需給の均衡を図るための「生産調整の円滑な推進」を削除すれば、政府は、米穀の需給及び価格の安定を図る手段がなくなり、事実上死文化します。政府備蓄制度も解体すれば、残るのは輸入だけになります。

政府は一貫して減産を押し付け

 農民連は令和の米騒動の起こる前から米不足を指摘し、ゆとりある増産を政府に要求してきました。しかし、政府は「米は足りている」の一点張りで増産は一度も呼びかけていません。2003年の食糧法大幅改定以来、毎年米の需要量は10万トン減少すると予測し、農家に減産を押し付けてきた結果が今回の米不足です。当時900万トン台だった主食用米の生産は700万トンを割るところまで落ち込んでいます。
 天候などに左右される米の豊凶のリスクを負担するのは本来、政府の責任です。ところが、財政制度等審議会は2003年度予算への建議で、食糧法大幅改定により、「国の関与縮減の流れを一層押し進め……仮に、生産が需要を上回り過剰が発生した場合にも、農業者の自己責任で対応することを基本とすべきである」との方針で農家には低米価が押し付けられ、米生産農家は174万経営体から53万経営体へと激減しました。

水田転作への補助の法的根拠を削り廃止へ

 現在の法律は2条2項で生産調整した場合、他の作物の生産の振興を図ることが政府の義務になっています。ところが、生産調整の用語が削除されれば、水田の転作作物への国の助成の法的根拠がなくなります。
 2003年の食糧法大幅改定時に米穀の生産調整の「定義」が削除されました。
 しかし、「生産調整」の用語がある限り、稲以外の作物の作付け、その他の農林水産省令で定める方法による米穀の生産活動の調整は政府の責任であり、水田活用直接支払交付金制度の根拠にもなっていました。

 

水田活用交付金は廃止

 自民党は総選挙公約でこれまでの「水田フル活用」から「田畑フル活用」へと言い換えました。そして盛んに「水田」を対象とする支援から「作物」ごとの支援だと宣伝しています。
 その中身は、小泉前農相が26年度概算要求の記者会見で水田活用直接支払交付金について「(26年度は)最終年度に近い発想でやっていく」「27年度以降に政策を大転換する。今回が最後の要求」(25年8月29日)と述べ、「農地を持っていれば(お金を)配る発想を取るつもりはない」(25年8月31日、NHK番組出演後の記者団の取材)と発言したように、水田面積単位(1反=10アール=当たり)の支援から、作物の収量・品質基準への支援に変える考えです。作物の「生産性向上」で農民同士をゴールなき競争に追い込むことになります。

 

民間在庫を備蓄にカウント

 農水省は、備蓄米の定義(目的)を米穀の生産量の減少のみでなく、需要増による供給不足にも対応できるよう、目的の見直しをすると主張し、同時に備蓄米空っぽの危機に乗じて、民間備蓄制度導入とMA米活用をねらっています。
 民間事業者に基準量以上の米穀保有を義務付けるとともに、供給不足の場合、事業者に放出の指示(基準量引き下げ、従わない場合は勧告・公表)を行い、市場に供給する制度です。しかし、通常販売の米と区分管理もしない民間備蓄は営業のための在庫です。いざという時はすぐに売り切れて、備蓄の役割を果たしません。政府備蓄なら、危急の時は警察などが武装警備し、絶対確保します。
 政府備蓄制度は、不作時のパニックを防ぐために消費者にとって極めて重要です。本来、備蓄在庫は豊作・不作に応じて変動すべきです。しかし、日本では長年91万トンをめどに横ばいという世界的に見ても異常な運用が続き、備蓄米として機能しない状態が続いていたことこそ問題です。

いざという時はMA米を食べよ

 「いざというときは、MA米を食べよ」が既定方針です。
 現在、政府備蓄は59万トン放出し、32万トンしかありません。26年産を21万トン買い入れても15万トンはエサに処分。27年も21万トン買い入れても12万トン処分します。28年には20万トンしかないことになり、100万トンの回復には程遠い計画です。
 一方、25年4月の食料供給困難事態対策法の基本方針は、「国民が最低限度必要とする食料の供給が確保されず、又は確保されないおそれがある事態に至った場合にはミニマム・アクセス米を活用することとし、その具体的方法を事前に検討する」と決定されました。
 日本政府は昨年、トランプ大統領とMA米の枠内でアメリカ米輸入即時75%拡大を約束し、ほぼ60万トンのアメリカ米が日本に輸入されています。(新聞「農民」3月2日付既報)
 まさに、いざというときはアメリカ米を食べよと準備万端です。そして、その分日本の農家には米を作るなと新たな圧力が強まります。

 

政備蓄米を解府制度体
民間備蓄と輸入米で代替
政府は国民の主食“米”に責任果たせ
軍事費よりも農業予算増を

 食糧法「改定」は、令和の米騒動という危機をテコに、本来は、政府の責任を位置づけなければならない「生産調整」をかなぐり捨て、「需要に応じた生産」で、生産者に自己責任を押しつけ、政府は何もせず、主食の米まで輸入頼みにするというものです。
 食料の安定供給を実現するためには、政府が備蓄米の売買を通じて価格と需給を安定させ、生産費と市場価格の差額を直接所得補償で補う政策が必要です。政府が備蓄米の売買を通じて、市場価格を「消費者が許容できる上限」と「生産コストを賄える下限」の範囲内に維持する。そのためには、備蓄量の大幅な増強が前提です。
 そのうえで市場価格と、生産費との差額(所得部分)を、政府が直接所得補償として補い規模の大小に関わらずすべての生産者の経営を支える制度が必要です。国民がいつでも安心して国産米を食べ続けるにはこの道しかありません。

 

米穀小売店にも影響大きい
日本米穀商連合会(日米連)
専務理事 相川英一さん
届出・定期報告の変更は業者に多大な負担

 今国会に提出される食糧法「改正」案は、米穀小売店にとっても、多大な影響が予想されます。特に、届出・定期報告の変更は米穀小売業者への負担増とともに精度にも疑問の声があります。
 「届出」については、出荷量の多い生産者や一定規模以上の加工業者や中食・外食事業者まで拡大します。
 「定期報告」については、(1)在庫量(2)取引量(3)取引価格(4)とう精数量等で、報告頻度は小規模な場合は年1回、一定規模以上は月1回となる見込みです。すべての届出事業者が対象となる現行の届出制では、年間取扱量500トン以上が年1回、5000トン以上が月1回だったので、膨大な報告件数となります。
 組合員からも「同じ米が何度も調査対象としてカウントされ、これをどう整理するのか。生産数量をしっかり調査することが大切ではないか」などの意見も上がっています。
 「米不足」の原因に「流通の複雑化」が指摘され、農水省は昨年、全届出事業者(7万業者)を対象とした調査を実施しました。
 しかし回答は2割にとどまり、実効性のある把握手法の仕組み等を検討してきました。
 食糧管理法の時代、米穀店は許可制でした。平成の米騒動後、食糧法に代わり、登録制から届出制へと変遷し、農水省は食管法時代を含めこの40年間、規制を緩和してきました。米穀店は生き残るために、業務用の取引を拡大したり、生産者からの仕入れを増やしたりなどの工夫を重ねてきました。
 インターネット販売やふるさと納税にも対応しています。いろいろな人が創意工夫した結果の流通実態ともいえます。細かく農水省が調査しても流通実態を把握するのは難しいのではないでしょうか。

 

これでは米作り続けられぬ
千葉県農民連 副会長
米農家 小倉毅さん(成田市)
激減する農家眼中なく輸入と企業任せに怒り

 農業センサスが発表され、農家の激減ぶりが数字で表されました。5年間で25%の減少、これはその時点であって、さらに加速しているというのが実感です。
 この現状では増産は不可能です。政府はどこを見て増産を言うのか。首相が変われば「需要に応じた生産」を言う。価格が下がるのも上がるのも生産者の責任、自分で見極めろ、食糧法改定の基本には国の責任が見えません。輸入だのスマート農業だの、そこには生産者ではなく、企業・資本の姿しかありません。
 主食を支える稲作農家は、2025年産米の1俵3万円を超える高騰に振り回され、確定申告ではこれまで経験したことのない税額に驚き、悩まされています。ところが一転、現在の庭先価格は2万円を切る急落です。「え!本当に?」と耳を疑い、「26年産米はいくらになるのか」と心配と不安の声が広がっています。こんなことでは安心して米づくりが続けられません。
 毎年一つずつ年は取ります。この食料生産の現状を国民にはしっかりと知らせたい。国民一人一人が自分のこととして農業問題を捉えてほしい。
 政府には、なぜこうした事態に至ったのか、総括をして政策を組み立ててほしい。生産農家と農地が激減している、だから輸入、企業にお任せ。こんな食糧法改定では、国民のいのちと国土は守れません。軍事費に予算を使うより、農業予算を倍加し、本気の農業再建が求められます。