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除草剤大量使用に食の不安IT技術より農家に補償を(2026年03月23日 第1692号)

乾田直播問題を考える
政府主導の推進に疑念の声
生産者、消費者、識者が発言

農水省(左側)に懸念を伝える参加者

 節水型乾田直播(は)問題の院内集会が2月24日衆議院第2議員会館でオンライン併用で行われました。主催は、節水型乾田直播問題を考える実行委員会。

生物多様性と多面的機能配慮を

 はじめに主催者を代表して下山久信さん(全国有機農業推進協議会理事長)が趣旨説明。「昨年来、米価の高騰が続く一方で、離農を余儀なくされる農家の数も止まらず、私たちの命を支える米の生産が今後どうなるのか、不安が高まっている。そんな中、田植えを省略して、湛水せずに実質畑で稲を育てる『節水型乾田直播』には大きな懸念があり、農水省は、今日の集会参加者の声をよく聞いて、再検討してほしい」と述べました。
 参加者からの発言では、舘野廣幸さん(民間稲作研究所理事長)が「稲作は水田で成り立つ。水が奪われれば生物多様性も失われる。私たちの田んぼから水を奪わないでほしい」と訴え、新潟県の天明伸浩さん(上越有機農業研究会・日本有機農業研究会)は「農村人口が減っているが政府は対策をとってこなかった。用水路、農道の維持・管理には人が必要。新技術開発より農家への補助を増やしてほしい」と伝えました。

農家・水田の減少に危機感

 近藤一海さん(ながさき南部生産組合会長代行理事)は「農業従事者は生活保護世帯以下。新規就農者への支援を急げ」と述べ、魚住道郎さん(日本有機農業研究会理事長)は「水田には地下水保全、水源かん養の役割がある」と指摘。池上甲一さん(西日本アグロエコロジー協会共同代表)は「中山間地振興に反する。節水型に対応できない農家はいらないということか」と批判しました。
 河田昌東さん(遺伝子操作食品を考える中部の会代表)は「農業は生態系の一部。直播は農業の工業化だ」と述べ、金井裕さん(ラムサール・ネットワーク日本共同代表)は「農水省は、生物多様性について検証したのか。新規農業者、消費者に水田の多面的機能の周知を」と訴えました。
 食の安全の面から松尾由美さん(生活協同組合コープ自然派事業連合顧問)は「除草剤が大前提の直播は不安。グリホサートの安全性について考慮したのか」と問い、安田節子さん(食政策センタービジョン21代表)は「直播の田んぼは、再び水田に戻すことは可能なのか。水田の減少に不安を覚える」と述べました。天笠啓祐さん(遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン共同代表)は「IT技術に補助金つけるより農家への所得補償を」と訴えました。

 

農民の選択が尊重され地域に根差した農業を

 集会を視聴し、自らも直播を実践している北海道農民連の富沢修一書記長の話
 自民党農政のもとで価格保障や所得補償が後退し、地域から農家・農民の姿が急速に減っています。そうしたなか、「水田を守る救世主」として水稲直播がけん伝され、全国各地で50ヘクタール、100ヘクタール規模の大規模経営が広がっています。
 その背景には、GPS搭載トラクターや自動操だシステムなど農業機械の進歩があります。
 農民はそれぞれ、「自分に合ったやり方は何か」を模索しながら営農しています。北海道の畑作地帯では、水稲品種をあえて陸稲として栽培する試みも話題になっています。気候や土壌、経営条件に応じて多様な米づくりに挑戦することは、本来あたりまえの姿だと思います。

国の狙いは生産性向上に偏重

 しかし国が直播に強い関心を寄せる狙いは、「生産性向上」と「低コスト化」にあり、そこに偏ってはいないでしょうか。確かに労働時間の削減や資材費の抑制は重要です。
 しかし、農業の要である生態系の保全、水田が持つ洪水緩和や地下水かん養といった多面的機能、地域社会を支える営みといった視点は十分に議論されているでしょうか。アグロエコロジー的な実践や小規模・家族経営を支える政策は、なお脇に置かれている感が否めません。
 大規模でやりたい人は大規模でやればいい。しかし、それだけが唯一の道であってはなりません。中小規模でも成り立つ価格保障・所得補償を確立し、多様な経営が共存できる農政こそ求められています。農民一人ひとりの選択が尊重され、地域に根ざした農業が持続できる仕組みづくりが急務です。
 どんな農法や栽培方法も、自然と生きもののつながりを無視しては成り立ちません。しかし、イランをはじめ世界の戦争や紛争は、生態系や自然環境を容赦なく破壊しています。
 私たちの暮らしも生業(なりわい)も、平和のうえにこそ営むことができます。遠くの国の戦争であっても、農業と戦争が共存することは絶対にありません。
 平和なくして、農もなし。だからこそ、私たちは農民の立場から、戦争に反対し、自然と人々の暮らしを守るために声をあげ続けます。