食と農を脅かす 種苗法改定案と新育苗法案は廃案に(2026年05月04・11日 第1698号)
政府が今国会での改悪強行をねらう
2法案の重大な問題点

タネは全類の共有財産
企業の横暴・独占を許すな
現在、開会中の特別国会で農作物の種子のあり方、食料と農業のあり方を大きく変えてしまう法律の制定がねらわれています。種苗法改定案と「重要品種の育成及びその種苗の生産の振興に関する法律案(新育苗法案)」の2法案が4月3日に閣議決定され、今国会で審議される予定です。この2法案は、これまで世界的にも高いレベルにあった日本の公的種苗事業の力をそぎ、ゲノム編集など遺伝子操作を使った種子開発を加速させ、また農民の権利も損なう結果をもたらすことが懸念されます。
育成者権を大幅に延長
種苗法改定案
UPOV超える異常な独占期間
育成者権の存続期間を、現行の25年から35年(樹木40年)へと延長します。これはUPOV条約の最低基準(20年)を著しく超えます。このような長期間の保護を設定している国は世界のどこにもありません。知的財産権の極端な強化は種子の独占をもたらすことで、農民の権利が奪われるだけでなく、新品種の開発を妨げます。
登録出願中でも企業側の主張で出荷停止可能に
品種登録が完了する前の「出願中」であっても、輸出を目的とする行為に対して、企業が農家に対し栽培停止や作物の廃棄を命じることができる権利が新設されます。対象が輸出に限定されているとはいえ、企業側の主張のみで出願段階から重いペナルティーが科される仕組みは、海外展開を見据える農家や流通業者に過度な負担を強い、さらなる萎縮を生むことになります。
違反農家を監視する体制を強化
今回の改正では「登録品種の名称を使用して種苗を譲渡した場合、その登録品種であると推定する」という新たな規定が設けられます。これにより、たまたま同じか、または似た名称で在来種や一般品種を取り扱っていただけでも権利の侵害と「推定」され、農家側に「侵害していない」という重い立証責任が求められる恐れがあります。すでに設置されている「品種保護Gメン」や「育成者権管理機関」に、より大きな権限を与えることにより、正当な在来種の自家採種なども萎縮させられる可能性があります。
国内外で種子の使用料吸い上げ得は企業ばかり
「戦略的海外ライセンス」の名の下に、海外での日本の知的財産権の管理を強化するものです。これは日本のブランドを守るという名目ですが、実態は、国内外の農家からロイヤリティー(著作権や特許権、商標権などの知的財産権に対する使用料)を吸い上げる体制となり、結局、ごく一部の企業はもうかるけれども農家は厳しいグローバルな競争にさらされることになります。
また、海外にも国内と同様の体制を引くために、日本政府は東アジア植物品種保護フォーラムなどを通じて、特にアジア諸国政府にUPOV1991への加入と日本と同様の種苗法改定を行うことを求めており、種子の権利を脅かされるのは国内の農家のみに留まらず、アジアの農家も含まれます。農家は国際的に過酷な競争を余儀なくされ、もうかるのは巨大企業ばかりで、個々の農家の収入には直結しません。
種子は農民の権利
国連「農民の権利宣言」で国に尊重義務を明記
国連が定めた「農民の権利宣言」では、「小農と農村で働く人びとは種子に対する権利を持ち、その中には以下の内容が含まれる」とうたわれ、「自らの種子と伝統的知識を維持、管理、保護、育成する権利を有する」と定められています。
種子に対する権利とは、(1)植物遺伝資源に関わる伝統的知識を保護する権利、(2)植物遺伝資源の利用から生じる利益の受け取りに公平に参加する権利、(3)植物遺伝資源の保護と持続可能な利用に関わる事柄について、決定に参加する権利、(4)自家採種の種苗を保存、利用、交換、販売する権利--です。
そのうえで宣言の締結国の責務として、種子の権利を尊重、保護、実施し、国内法において認めること、十分な質と量の種子を手頃な価格で小農が利用できるようにすること、小農の種子を守り農業生物多様性を促進することなどを規定。「締約国は、種子政策、植物品種保護、他の知的財産法、認証制度、種子販売法が、小農の権利、特に、種子の権利を尊重し、小農の必要と現実を考慮するようにしなければならない」としています。
UPOVとは
種苗企業の種子独占を各国政府に押しつけ
マレーシアの首都クアラルンプールで行われたUPOV91への抗議行動=2025年11月(マレーシア食料主権フォーラムのフェイスブックへの投稿から)
UPOVとは、「植物新品種保護国際同盟」のことです。これはもともとヨーロッパの大手の種苗企業が世界の政府に種苗企業の知的財産権を守らせるように作った民間企業による国際組織です。UPOV条約では種子は種子企業の知的財産であるとして各国政府に自国の種苗法を改定させることを義務付けます。
1961年の起草以来、何度も改定され、78年の改定では農民の自家採種の権利が認められていますが、91年版では、原則禁止になりました。
UPOV上回る日本の種苗法改悪
このUPOV条約の最新版であるUPOV1991に日本が加盟したのが1998年で、それ以来、日本政府はこのUPOV1991を忠実に実行するように種苗法の規定を徐々に変えていきました。
そして2020年の改定で、すべての作物の自家増殖が禁止(許諾制)になり、UPOV1991が求めることを飛び越え、さらに今回の改定で改悪しようとしています。
新育苗法案
公的資産を企業が私物化
地方自治体は企業の下請けに
種苗法改定案と並んで審議されるのは、新たに成立させようとしている新育苗法案です。
これまでは、国の方針に沿って民間企業が重要品種育成事業計画を提出し、承認されると、国立研究開発法人(農研機構)の保有する研究施設や設備が、民間企業の品種開発のために供用される仕組みが法制化されています。地方自治体もこの国の方針に沿った連携を求められます。
ところが新法によって、これまでの日本の種苗の中軸を担ってきた地方自治体の公的種苗事業は民間企業のインフラとして使われる可能性があります。公的資産を利用して開発された品種は公的な財産になるはずですが、産業技術力強化法によって、これを民間企業の独占物にすることが可能になっています。これは「コストは税金と自治体、利益は企業」という公的資産の私物化に他なりません。
新ゲノム技術が性急に利用拡大
法案制定の理由とされる気候変動対策には、種苗の多様性を確保することが有効ですが、これでは逆に広域向けの品種を少数作ることになることが想定され、種苗の多様性は困難になります。
国家がトップダウンで目標を設定して運用されるこの新たな育種体制では、全国各地の地域のニーズに応じた多様な品種の開発は置き去りとなり、広域を対象に、より売り上げを得られる品種を効率的に開発することが求められます。
それはゲノム編集や重イオンビームなどを使った人為的突然変異に依存するか、育種ビッグデータに頼ったAI(人工知能)育種が幅を利かせることになる可能性があります。しかし、そうした品種が激変しつつある環境に対応でき、健康にも安全なものとなるという保証はありません。
さらに、国家主導の新たな種苗開発体制に実質的に参加できるのは特定の少数民間企業に限られ、種苗の独占がさらに強められ、地域の農業に貢献してきた小さな地域の種苗企業が姿を消す可能性があります。
また、これまで日本の種苗開発の主軸となってきた公的種苗事業は地方自治体であり、日本を代表する地域に適した品種が数多く開発されてきました。民間企業への開発支援体制が大きくなることで、地域向け品種が失われるだけでなく、日本が世界的に誇ってきた従来の品種改良技術が失われてしまう可能性があります。
自家採種は農家の楽しみ、醍醐味
栃木県真岡市の農家
栃木農民連会長 國母克行さん
作物の多様性も農家の生産意欲も減少
田植えをする國母会長
新しい種を導入したときは、ワクワクして種まきします。水やり、除草など精いっぱい世話をして、うまく行けば収穫にたどり着きます。そしてできれば数年は自家採取して栽培を続けると、自分の所の土、気候環境に合ってきて、うまく育つようになるものです。当然そのためにはF1(※異なる特性を持つ2つの親系統を交配して作られた、一代限りの交配種)でない種が必要です。
私の所にもこうしてお気に入りになった野菜、穀類、豆などがいくつかあります。そうして育てたものは、不思議とだんだんおいしくなるような気もします。これが農家の楽しみ、醍醐(だいご)味でもあると思います。
しかし、現在の2020年に改定された種苗法の下でさえ、種苗の価格上昇や入手の難しさが増加し、自家採種も手続きが面倒であったり、禁止されたりして、栽培面積を減らしたり止めている農家も身近にあります。
そして今度の種苗関連法案では遺伝子操作などバイオテクノロジーで気候変動に対応する体制を整える方針のようですが、在来品種の総合力、秘めている力の方がよほど期待できると思います。遺伝子操作された作物を広く栽培させれば、作物、農家の多様性の喪失で、かえって気候変動に弱く、つまらない、元気のない農業になりそうです。
2法案が実施されることになれば、さらに農家の種子の権利がほぼなくなって経営に支障をきたし、意欲の低下で農家の減少、生産力の低下、そして消費者への影響も大きくなるのではないでしょうか。農家が作り伝えてきた大切な種の資源も途絶えかねません。
2法案は「農民の権利」を完全に黙殺
国連「農民の権利宣言」や「食料・農業植物遺伝資源に関する国際条約」(ITPGRFA)などが認める農民の権利について、この2法案は一切の配慮を欠いています。農家が数千年かけて築いてきた種子の仕組みはコアな「シードシステム」として守るべきであり、現にインド、イタリア、ブラジル、フィリピンなどでは国レベルの法律で農民の権利や在来種が明記・保護されており、韓国でも地方自治体の条例による在来種の保全と活用が力強く広がり、農民による種子のシステムが強化されています。
ところが日本の種苗政策はこれを一切無視して、農業の根幹をなす活動である育種・採種活動を実質的に不可能にしてしまうものであり、日本の農業の真の発展を阻害するものです。そして、そのような法改定の影響は海外にも及ぶ可能性が懸念されます。
OKシードプロジェクトが反対声明
種子の公共性と農民の権利の回復を
市民団体「OKシードプロジェクト」は4月21日、「種苗関連2法案の成立に反対し、種子の公共性と農民の権利の回復を求めます」とする声明を発表し、以下のことを求めています。
▼種苗法再改定案と新育苗法案の拙速な審議に反対します。
▼独占期間の35年延長を撤回し、国際標準(20年)以下に据え置くことを求めます。
▼農家の自家採種および在来種の保存と活用を法的に守り、支援することを求めます。
▼地方自治体の公的種苗事業が持つ意義を再確認し、地域の特性に合った種子の生産継続を求めます。
▼東アジア植物品種保護フォーラムなどを通じたアジア諸国へのUPOV1991への加入、種苗法改正の政治的圧力を加えることをやめることを求めます。

