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主要食糧法改定案 参議院農林水産委員会・参考人質疑(2026年07月06日 第1706号)

国民の主食 米の需給と価格安定の責任を国は放棄するな

 参議院農水委員会が6月23日に開かれ、主要食糧法改定案についての参考人質疑が行われました。農民連の長谷川敏郎会長、日本大学法学部の西川邦夫教授、新潟食料農業大学の武本俊彦名誉教授の3氏が出席し、発言しました。長谷川会長の発言要旨を紹介します。

長谷川敏郎農民連会長が意見陳述

参院農水委員を前に訴える長谷川会長

政府の責任で適正在庫回復を

 島根県邑南(おおなん)町の中山間地で繁殖和牛2頭、1町4反の農家です。資源循環で生態系を活用したアグロエコロジーをめざし家族でがんばっています。
 主要食糧法改正案について意見陳述を行います。
 「令和の米騒動」を総括し、二度と米不足を発生させないために国の果たすべき役割を再度明確にしていただきたいと思います。というのも、改正の目玉は、政府が米不足の責任を棚上げしたまま、私たち農家に「需要に応じた生産」を主体的に行えと努力義務を押し付け、国家責任を肩代わりさせようとするからです。
 いま、農家が集まれば、米の在庫が過剰らしい、出来秋の米価は暴落だという話ばかりで不安いっぱいです。さらにホルムズ・ショックによる資材・肥料・農薬・燃油、飼料の高騰に苦しみながら生産を続けています。
 米の民間在庫が4月末に249万トンに達した最大の原因は2025年に放出した備蓄米59万トン分を買い戻しせず、去年の25年産備蓄米21万トンの買い入れをしなかったからです。合計80万トンを直ちに政府が市場から引き取れば、過剰在庫は解消し、国産米備蓄100万トンの復元にもめどがたち、国民のみなさんは安心できます。政府が作り出した過剰は、政府の責任で一日も早く適正在庫にしてください。
 ところが、農水省は5月22日にMA(ミニマム・アクセス)一般輸入米の入札を実施し、アメリカ米3万6千トンを落札しました。昨年6月に小泉農相が入札を前倒ししたのに続き、今年はさらに1カ月前倒しです。われわれが作った国産米は買わずに、なぜ、アメリカの米の輸入を昨年20万トンも増やしたのか、怒りが農村に広がっています。

米不足の原因を作り出した政府

 令和の米騒動は、需給調整を減反でギリギリの生産を行う、長年の「需要に応じた生産」政策の失敗に他なりません。この反省もなく、「需要に応じた生産」を明記するのは恥の上塗りです。
 稲作は自然を相手に1年1作であり、天候・災害により豊作不作はつきものです。農家が春先に需要見通しに基づく「生産目安」で作付けしても、出来秋に需要ぴったりの生産になることはもともと困難です。高温障害など近年の気候危機の中では殊更です。また、需要は特に価格によって大きく変化しトレンドによる単純な予測では困難なことが改めて明らかになりました。
 農民連は、コロナ・パンデミックで20万トンの米過剰になり、米価大暴落の時、何度も政府に買い入れを要請しましたが政府は受け入れず、需要がさらに減少するとの見通しを発表し、21年から22年で17・5万ヘクタール、90万トンの減産を求めました。米不足を作り出したのは政府です。
 逆に農民連は24年5月、早くから米不足を指摘し備蓄米の放出を要請。9月に農水省前で要請集会も開きました。しかし、「新米が出れば」とか「米不足はない」と1粒たりとも放出しませんでした。政府が法に定める「備蓄の機動的な運営」や「米穀の適切な買い入れ、輸入及び売り渡し」を、法律通りに実施しなかった怠慢の結果です。法律が悪かった訳ではありません。いわんや、農家が「需要に応じた生産」をしなかったからでもありません。

国は価格の安定にも責任果たせ

 主要食糧法は国家が主食の需給と価格の安定に責任を持つと定めています。ところが、「需給の安定を図り、およびこれを通じて価格の安定化」に変え、需給と価格の安定を分離する。需給が安定すれば、結果として価格も安定するだろうというとんでもない無責任な考えです。
 「結果としての価格安定論」は、どんな価格で安定するのか不明です。国民が買い続けられる価格か、高止まり安定か、それとも農家が生産を続けられない低価格安定か全く不明です。スーパーに米が並んでも貧困と格差の拡大で「食べたくても食べられない人々」にとっては米不足と同じです。1年で2倍に高騰し、買いたくても買えないという消費者の悲鳴に、一番心を痛めているのは私たち農家です。
 さらに、できないことは条文に書かないとばかりに現行法の11カ所ある「価格の安定」の用語はほぼすべて削除されます。
 鈴木農水大臣の「市場に介入しない」という答弁は主食の需給と価格の安定に失敗した言い逃れです。それなら、去年小泉農相が「価格破壊する・ジャブジャブにする」と断言し備蓄米を放出したこと。石破前首相の「米価5キロ3千円台が望ましい」の発言は価格への関与ではないのですか。鈴木大臣は備蓄の放出の判断が遅かったと反省していますが、備蓄米放出そのものの効果や価格への影響について何一つ総括されていません。
 米の生産を調整し需要と供給のバランスを取り、国民生活に混乱をもたらさないように価格を安定させる。不足なら備蓄米を放出し、過剰なら市場から隔離する、これは国家にしかできない、また、国がやるべき最低限の仕事です。

主食の安定は生存権の具体化

 政府は主食の需給と価格を安定させる責任から逃れることはできません。そもそも、戦時立法であった食糧管理法(食管法)が、ポツダム勅令で廃止されずに生きながらえ、不十分であっても主要食糧法に引き継がれた根本には、憲法29条の財産権を抑えてでも米の自由な生産・販売を制限できるのは、憲法25条の生存権規定の具体法として食管法が合憲であるとされたからです。
 昭和23(1948)年の最高裁判決は「(食管法は)国民食糧の確保及び国民経済の安定を図るため、食糧を管理しその需給及び価格の調整並びに配給の統制を行うことを目的とし、この目的を達成するに必要な手段、方法、機構及び組織を定めた法律である。国家経済が、いかなる原因によるを問わず著しく主要食糧の不足を告げる事情にある場合において、若(も)し何等の統制を行わずその獲得を自由取引と自由競争に放任するとすれば、買漁り、買占め、売り惜み等によって漸次主食の偏在、雲隠れを来たし、従ってその価格の著しい高騰を招き、遂に大多数の国民は甚しい主要食糧の窮乏に陥るべきことは、識者を待たずして明らか」と述べ、「同法は、国民全般の福祉のため、能(あた)う限りその生活条件を安定せしめるための法律であって、まさに憲法第25条の趣旨に適合する立法」としました。
 食管法は1995年、WTO(世界貿易)協定で米輸入自由化受け入れを理由に廃止され主要食糧法になりましたが、生存権保障のため、国家による主食の供給責任は依然として引き継がれています。そのため、現行法は依然として農家に対する米穀の売り渡し命令(39条)や米穀の割り当てまたは配給の規定(40条)があり、農家が命令に従わなければ1年以下の懲役または300万円以下の罰金も定められています。

稲以外の作物の生産振興も消滅

 今回の法改正はこれまでの水田政策の終えんです。
 世界の食料需給が中長期的にひっ迫する中、食料自給率向上は喫緊の課題です。そのために連作障害がなく半永久的に使い続けることが可能な食料生産基盤である水田を活用し、米の増産、自給率の低い大豆、麦・畜産のための飼料等の生産拡大が求められています。
 しかし、現行2条2項の「政府は、(略)水田における稲以外の作物の生産の振興に関する施策その他関連施策との有機的な連携を図りつつ、地域の特性に応じて、これを行うよう努めなければならない」という条文を削除します。
 鈴木大臣は5条4項の「その他関連施策」に含まれると強弁しましたが、政府の仕事を米穀の新たな需要創出・輸出拡大・生産性の向上をうたっているだけで、水田を生かした稲以外の作物の生産振興は消えました。

“水活”交付金の予算根拠も失う

 この削除により「水田活用の直接支払い交付金」の予算措置の根拠を失います。この交付金がなくなれば、多くの農業者は米以外の作物を作っても交付金がなく採算が合わず耕作を放棄せざるをえません。大規模経営ほどこの交付金に依存しており、経営は深刻になります。私のような小さな農家でも牛2頭のために牧草のイタリアンを1・5反作っていますが、飼料作物支援として1反3・5万円の交付金があり、飼料高騰のなか大変助かっています。
 また、地方公共団体や農協の役割も大きく変えられます。地域の特性に応じた農業振興が消えるため、「水田フル活用ビジョン」、令和3(2021)年度からの水田収益力強化ビジョンも、地域再生協議会への支援も後退します。改正では情報提供するだけです。
 島根県は令和2(2020)年から「生産目安」の配分をやめ、邑南町も、町再生協議会による集落推進委員の会議がなくなり、「情報提供」のみです。その結果、JA担当幹部は「個々の農家へほとんど情報が伝わらない状況」と語り、それまでほぼ維持していた戸数・筆数がこの5年間で23%も激減し、受け手のない田が約2割を占めています。
 昨年町内の集落営農の解散がマスコミで大きく取り上げられました。町の中心地にも耕作放棄が出始め、町政座談会では町の責任が問われる事態です。先日、大屋光宏・邑南町長と話をすると「これまで集落営農・大規模化・法人化だけを進めてきたが、もう引き受けられない段階に来ている。もっと個人の農業への支援を強めるべきだったのではないか」と語っています。
 地方自治体や農協の役割を弱めれば、農家の生産意欲を支えてきたシステムが崩れ、生産基盤が一気に崩壊します。

大規模だけで米生産維持できぬ

 規模拡大だけで農地を維持することは困難です。大規模農家に農地を集めれば、米生産を維持できる段階ではなくなってきています。直近5年間で農家全体の24%にあたる26万の農家が離農しました。いまや稲作農家の平均年齢は71・1歳。あと5年です。その後、いったい誰が日本の米を作るのか? まさに非常事態です。いま必要なのは、規模の大小にかかわらず、すべての農家が安心して増産できるセーフティーネット対策を作ることです。

農家への所得補償で食料を守れ

 昨年来、農民連はじめ多様な農業農民団体が集まり「令和の百姓一揆」トラクターデモを全国26都道府県で行いました。百姓一揆の要求は「農家への所得補償」です。6生協の提言や主婦連合会はじめ、多くの消費者団体が農家への直接支払い・所得補償で私たちの食料を守ろうと運動がかつてなく広がっています。
 急いで主要食糧法を悪い方へ改正することを思いとどまり、今一度、法律通りにきちんと運用し、さらに、農家への所得補償制度を実現していただくことをお願いして陳述を終わります。

 

参考人質疑ハイライト

 6月23日の参考人質疑では、各党の農水委員の質問に対し、いくつかの論点が議論になりました。

「需要に応じた生産」と「生産調整」廃止

日本大学法学部教授
西川邦夫氏
「生産調整」削除で法的担保失われる

新潟食料農業大学名誉教授
武本俊彦氏
価格暴落のリスク国が支える明言を

 「需要に応じた生産」について、その前提となる政府による「需給見通し」について西川氏は「需給見通しは、なかなかこれまでも当たらなかった。(農水省)統計部門の職員拡充が重要だ」と指摘し、武本氏も「データの正確性には限界があり100%は無理」と述べました。
 長谷川会長は「問題は、田植えをして以降には生産が急に増えたりはしない。去年のように、田植えが終わってから総理大臣が増産をする、切り替えると言われても、それからでは間に合わない。かつて食糧庁があって食糧事務所があって、詳しい調査をしている時代はともかく、今そうした人手は全くないわけだから、ぶれが出てくるのは仕方ない。ぶれが出ることを前提に農家が安心して生産を続けていいという制度設計をお願いしたい」と訴えました。
 改定案で「生産調整」の文言がなくなることについて、西川氏は、「『需要に応じた生産』が生産調整として機能したのは、食糧法に生産調整が規定されていたから。今回、その文言が消えた場合、生産を減らしていく方向で運営していく法的担保が失われる」と述べました。
 武本氏も「生産調整規定の削除は、法的には、生産調整をやめることを意味する。需要や輸出の拡大には時間がかかる。生産調整をやめれば明日から大変なことが起こるかもしれない」と警鐘を鳴らしました。
 さらに「製造業は需要の変動に対して供給量を調整できるが、農業はできない。放置すれば、暴落という形で生産者が負担しなければならなくなる」と、農業特有のリスクを説明し、工業と農業との違いから、農家を支える国の責任を説きました。
 さらに「その議論の背景にあるのは、放っておくと農民がいっぱい作り始めるのではないかという節が感じられる。しかし、いまそういう状況にはもはやない」と答弁しました。
 長谷川会長は「需要に応じた生産が打ち出されたのは2003年で施行は04年。需要に応じた生産を押し付けられた結果がいまの事態だ。そして今回、法律にわざわざ『主体的に』と書かれた。われわれが主体的にやってこなかったのか。これほどの上から目線の法律はありえない」と批判しました。

所得補償(直接支払い)、価格保障

 西川氏は「今回の食糧法の改正で生産段階における生産調整が一定程度緩むというふうな中では、主食用米に対してセーフティーネットを設けるというのは当然考えられ得ると思っている」と述べました。
 武本氏も「再生産を確保するために、直接支払いや保険方式など、つまり財政負担によって再生産を維持するというところを入れるべき」だと答えました。
 長谷川会長は、「価格保障で、一定の価格はきちんと政府が支えていく。所得補償で農地も農村も守っていくことが大事」だと訴えました。