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米だけじゃない 麦も、大豆も、飼料作物も 農家支援の総切り捨てへ 水田政策の終えん(2026年08月10日 第1711号)

農水省 新たな水田政策とは

稲刈りに備えてあぜの草刈りを念入りに行います(千葉県佐倉市)

 2027年度から農水省は「新たな水田施策」を推し進めようとしています。食糧法改悪で政府の主食への責任放棄を明文化したうえで、今度は、生産性向上の名のもとに農家同士を競争に駆り立てています。さらに農家支援を根こそぎ切り捨て、日本農業を支えている中小農家を排除し、食料自給率向上の目標にも背を向けるなど、政府の水田政策終えんの総仕上げというべきものです。農家への所得補償と価格保障が今ほど求められているときはありません。

食料自給率向上を放棄

 新たな水田政策=米改革は、主要食糧法改定を受け、主食用米生産は「需要に応じた生産」を米農家の自己責任として押し付ける一方で、生産調整という用語そのものの削除により、水田を水田として生かし食料自給率の向上をめざすこれまでの水田政策の大転換・事実上の放棄です。
 2025年4月決定の食料・農業・農村基本計画(以下、基本計画)は「水田を対象として支援する水田活用の直接支払い交付金(水活)を、作物ごとの生産性向上等への支援へ転換」と述べ、さらに「水田、畑に関わらず、生産性向上に取り組む者の支援」に限るとしています。

農業予算は増やさず、新たな排除の論理持ち込む

 これまでの水田面積に加えて、畑地の大豆や小麦の生産面積も含めれば、面積当たりの支援単価が下がることは誰が考えてもわかります。
 基本計画は「予算は、現行の水活の見直しや見直しに伴う既存施策の再編により得られた財源を活用」と、農業予算を増やす気は一切ありません。
 さらに、支援対象そのものを減らそうとねらっています。6月22日から全国8カ所で農水省が行った説明会で何度も繰り返された言葉は、「交付対象水田という概念がなくなります」と水田への作物の作付けだけでは対象にならないことを強調。
 さらに「これまで生産性向上の努力をされてきた方は今まで通り、さらに努力される方にはさらなる支援ができるよう、必要な予算額をしっかり確保」すると説明しています。これは農水省の決める新しい基準で「農家をふるいにかけ直す」ことにほかならず、新たな「排除の論理」の持ち込みです。
 ゆとりある主食用米生産への支援は全くなく、外食・中食・加工用の安い業務用か、60キロ9500円の輸出用米を作るか、大区画化、スマート技術、多収性品種等の生産性向上を強力に推進する農家にだけ支援を集中し、多くの中小農家は新たな水田政策の枠外に置かれることになります。

中小農家排除して主食確保は可能か

 25年農林業センサスでは、5年前と比べ25万経営体が減少して82万8千になり、10年間で4割にあたる55万経営体が離農しました。
 新たな水田政策の「作物」を対象とした支援は、作物を「販売する農家」だけが対象です。
 82万8千経営体のうち、経営規模が30アール以下で販売が50万円以下の自給的農家に分類される経営体は25万5千を占めています。また、販売目的で米を生産する農家53万3千のうち、1ヘクタール以下の農家がほぼ6割を占めています。
 これらの農家を支援の対象から排除して、果たして国民の食べる主食が確保できるのでしょうか。
 大規模経営や先進技術に投資できる経営体に支援を集中しても、国民の食料を安定供給することはできず、さらに輸入農産物の拡大に道を開くことになります。

「生産性向上」で農民同士をゴールなき収量競争に追い込む

 農水省の説明では、今後は「収量に応じた面積支払い」になり、都道府県別の単収を基準に地域差を設け、水田と畑地で収量差を考慮するとしています。
 しかし、現在の畑作物の直接支払い交付金(ゲタ対策)と比べ、同じ面積払いでも、諸外国との生産条件の格差により不利がある国産農産物の生産を行う農業者に「標準的な生産費」と「標準的な販売価格」の差額分を直接交付するという考えではありません。あくまで地域の平均単収が基本であり、「一定以上、下回る場合は、支援は行わない」のです。
 基本計画がめざす単収(1・7ミリ目)目標は表1の通りです。
 2030年目標を達成するのも大変です。そのために農家は現状よりさらに化学肥料と農薬を多投し、管理労働時間も増やさなければなりません。しかし、みんなが単収目標を達成すれば、さらに次なる目標が設定され、支援対象から振り落とされる農家が出てきます。つまり、農家同士を単収で競争させ、努力しても努力しても報われない無間地獄。生態系や環境に負荷を与える工業型農業を推進させられます。

水田政策から完全撤退し、転作作物への支援も削減へ

 基本計画では麦、大豆、飼料作物についても、「食料自給力向上の費用対効果を踏まえて」とタガをはめ、ハナから予算を拡大する気がありません。
 この考えは、食料自給率向上を投げ捨てた基本法改定を背景に、財務省が24年11月に財政制度等審議会へ出した資料(表2)で「食料自給率と財政効率」を前面に出すようになってからです。水田を活用して小麦や大豆などを作り、自給率を上げるには国費が畑の2倍もかかる、水田活用直接支払い交付金はやめてしまえといわんばかりです。
 しかし、水田での小麦・大豆・そばの作付けは大きな位置を占めています(表3)。飼料イネや飼料作物も含めて、これらへの支援がなくなれば生産は大きく落ち込み、38%を維持している食料自給率は一気に下がります。
 新たな水田政策は、これまでの「水田を水田として守る」考え方そのものを放棄する水田政策からの完全撤退です。米作りや転作作物の価格保障・セーフティーネットもない中で多くの農家は経営が成り立たなくなり、一層の離農・耕作放棄地の拡大になります。
 いざという時の食料安全保障のためには、いつでも米を増産できるように水田を維持しておかなくてはならないのです。

全ての農家を対象に所得補償政策の確立を早急に

 農民連の要求する所得補償(直接支払い)は単位面積当たりの支払いです。それは農地を面的に守るための支援であると同時に、ものを作る全ての農家を対象とするものでなければなりません。
 そうでなければ、地域の農地を維持する水路や農道などの農業インフラは守ることができません。
 所得補償・価格保障制度が確立しない現段階での、水田活用直接支払い交付金の面積払いから作物ごとの支払いへの転換はこれまでの農政の大幅な後退です。

 

大規模化・スマート技術でコスト削減、省力化押しつけ
「骨太方針」で総額削減に

 2027年度から始まる「新たな水田政策」で、支援単価や要件等、具体的制度設計については、現場の声も踏まえながら検討を進めていくなどとしていますが、すべての作物に共通して、単収増による収量増とスマート技術導入など、コスト削減による生産性向上などの条件で単価が差別され、農家を際限ない競争に駆り立て、地域や経営の違いで選別が進められることになります。
 これらの水田政策の見直しとあわせ、特別国会で成立した改定食糧法などにより、主食用米の円滑な流通の確立や、食料システム法に基づくコストに見合う価格形成の促進、稲作農業者のセーフティーネット対策などの措置を講じるとしています。

未確立技術で収量増、生産性向上を押し付け

 しかし、農水予算の減少が続く中で、水田活用直接支払い交付金、中山間地、多面的機能、環境保全対策などの総額予算の大幅増がない限り、期待できるものではないことは明らかです。
 農家も農地も減少するため、多収性品種による収量向上、規模拡大とスマート技術で省力化し、コスト引き下げをめざして食品産業や輸出への安価な原料供給産業としての企業的農業をめざすことを最大眼目としています。
 米については、中・外食業界、食品製造業者が求める「業務用米」への支援を、新たに水田活用直接支払い交付金に導入します。
 新市場開拓米のうち輸出用米には、現在10アール当たり4万円が交付されています。収量向上に努力した農家に、生産性向上の取り組みとしてより多く支払う仕組みになり、直播(は)や再生二期作などを「先進的取り組み」として支援するとしていますが、収量・品質に実態が伴うかどうかは疑問です。
 また、多収性品種や高温耐性品種なども、これから開発されるような段階であり、直播での収量不安も解消されておらず、乾田直播などはさらに、収量増のために、効果の不確実なバイオスティミュラント資材の投入、除草剤の多用、コスト増や環境への負荷増など、確立されたわけではない技術が多く、農水省自身が普及技術としておらず、検証のための研究もこれからです。
 確立されていない技術や基盤整備、気候条件などの合う地域での実践のみを前提に、省力化などの生産性向上を押し付けていこうとしています。
 米不足・米価高騰のもとで、輸入米の需要が非常に増えたこともあり、中・外食向けの「業務用米」の輸入米需要を奪還するために「低コスト化を進めよ」と、需要に応じた生産ができない農家を脅迫しているかのようです。

単価は予算次第、直接支払いは不十分なまま

 単価設定は来年度予算編成中ということで明確にはせず、収量・生産性で単価上昇もあるかのような説明が行われています。水田活用直接支払い交付金は、絶対確保するとしていますが、農地面積の減少で確実に減額されていくことが考えられます。減額されないために収量増が求められるという関係にもなっています。
 飼料用米に特別支援を行うとしていますが、交付単価の引き下げはすでに実施されており、高付加価値化を図る畜産経営との複数年契約での耕畜連携が要件となり、実需者である畜産農家が周辺にあることや必要量の限界など制約も多いものとなっています。いずれにしても、主食用米などとの価格差はあまりにも大きく、米価下落が前提となる支援でしかありません。
 中山間直接支払い、多面的機能支払いは、地域の営農、共同活動の将来にわたる継続に向けて支援を強化するとしています。また、付加価値向上につながる環境直接支払いの創設も図るとしていますが、単価が上がるわけではなく、不十分な支援は継続したままでの見直しでもあります。
 日本型直接支払いについては、実施主体の運営や自治体による支援など、これまでにも課題としてある行政などのマンパワー予算不足の問題があります。個別経営での計画と実施や、中山間地域支払いの実施率向上を狙った多面的機能支払いとの一体的実施など、地域の実態を反映した見直しも部分的にはありますが、いずれも農家人口減少が背景にあるもので、環境保全型支払いの見直しも、単価の引き上げが検討されているわけでもなく、「もうかる農業」が前提となっているなど問題は少なくありません。