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インタビュー 改定食糧法を問う(上)(2026年08月10日 第1711号)

需給・価格の安定に背を向ける
主食への政府の責任を放棄

新潟食料農業大学名誉教授
武本俊彦さん

たけもと・としひこ
1952年東京都生まれ。76年に農水省入省。2013年から食と農の政策アナリストとして活動し、18年度から23年まで新潟食料農業大学教授。

 主要食糧法が改定されました。6月23日に参議院農水委員会で参考人質疑が行われ、新潟食料農業大学名誉教授の武本俊彦さんが意見陳述しました。改めて武本さんに、今回の改定法の問題点と今後の農政の課題について聞きました。
(2回連載)

政府の機動的対応が困難に
 改定前の主要食糧法は、国が米穀の需給と価格の安定に責任をもつことを定めていました。
 しかし、今回の改定の特徴の一つは、「需給の安定を図ることが、結果として価格の安定につながる」という目的規定についての修正でした。
 「需要が安定すれば供給は安定し、供給が安定すれば価格は安定するだろう」ということですが、それは製造業のように、基本的には需要の変動に対して供給量を調整するという機械的なことが可能な産業では成り立つ議論かもしれません。
 しかし、生きた動植物を相手にする農業は気候変動などに影響され、生産が不安定になりやすく、価格動向も先行きの不安や期待で変動し、需要や供給に影響することが常態化しています。
 したがって、この目的規定の変更は実態を無視し、需給と価格の安定への政府の機動的対応を困難にするもので改悪そのものです。
需要に応じた生産で責任転嫁
 2つめに、需給の調整手段である生産調整の規定を食糧法から削除し、その代わりに「主体的に需要に応じた生産を行う」という生産者の努力義務が盛り込まれました。この議論の背景には、「放っておくと農民がいっぱい作り始めるのではないか」という考えがあるのではないかと思います。
 しかし、50、60年前の高度成長期のときのように、生産者も多く、増産、増産でやっていた時代ならともかく、いま大増産できる状況ですか? 産直で顧客がつき、外食産業と契約している農家ならある程度はできるかもしれませんが、条件の悪い中山間地では増産どころか、耕作放棄地がどんどん増えてしまっている状況です。結局、政府は、「増産できずに食料が足りなければ輸入すればよい」という立場をとっているとしかいいようがありません。
 いま必要なのは、厳しい条件のなかであえて生産を続けている生産者が農業をやめないようなセーフティーネットを政府がつくることではないでしょうか。セーフティーネットもなく努力義務だけで生産者に任せるというのは時代に逆行していると思います。
民間の財産権侵害のおそれ
 3つめに、供給不足への対応策である政府備蓄の機動的運営の問題です。令和の米騒動の教訓は、本来であれば、政府備蓄を機動的に放出すべきなのに政府が何もしなかったことから生じたものです。なぜ機動的な運営ができなかったのかが問われるべきですし、今後はそのようなことが起こらないよう法律に書き込むべきですが、そのような対応をしていません。
 今回の改定では、本来、政府備蓄の補完的役割の民間備蓄を節として新たに置き、民間在庫の一部を備蓄という形で活用することも盛り込まれました。
 ここは、民間在庫という私有財産の処分は政府が好き勝手にできないことから、緊急事態のときは米を放出できるよう食糧法に備蓄として規定したのでしょう。
 つまり、備蓄制度というものは、食糧法の中で国が需給の安定のために市場への介入が認められたもので伝家の宝刀のようなものです。そういう点では、備蓄の機動的運営を確保するために政府が司令塔の機能を発揮する必要性を明らかにしないまま、民間企業の負担のもとに民間備蓄の活用を導入することは、憲法が定める財産権に制限を加えることであり、憲法違反の疑いがあると考えます。
 こうして今回の改定でも、米穀の需給と価格の安定を図ることは困難なままだと考えます。

(つづく)