インタビュー 改定食糧法を問う(下)(2026年08月24日 第1712号)
新潟食料農業大学名誉教授
武本俊彦さん
水田・農業はどうあるべきか?
基本法を踏まえた農村・地域政策を
参院農水委員会の参考人質疑で意見陳述する武本さん(右)=6月23日
担い手の確保と多面的機能発揮
食糧法の改定を踏まえて、今後の水田、農業政策はどうあるべきかという問題ですが、もともと食糧法は、基本的には生産者が作った米を生産段階から流通・加工・消費までどうやって円滑に流通させるのかを定めた法律です。
一方、農業生産のあり方、農地をどう保全し、誰が担うのかというのは、「食料・農業・農村基本法」の問題です。現在は、稲作を始めとする農業者がいなくなってしまうのではないかという危機的状況にあるのだから、こうした問題を基本法を踏まえて議論していくべきだと考えます。
基本法の農業への考え方として、食料の安定供給機能と多面的機能の2つの柱があります。そういう点では、再生可能エネルギーのような環境に負荷のかからない生産構造にして土地利用も図っていくことが大事です。
基本法も「農村」の文字が入り、それが位置づけられており、農業を単に産業政策のみで考えてしまうと、どうしてもフードテックやスマート農業のような生産性の向上に特化した政策だけになってしまいます。
農業・農村問題地域で企画立案
農山村はコミュニティーの存在を前提としており、農業や農民が地域の担い手として位置づけられています。他産業の人々とも協力して、情報交換したり、交流したりしながら、お互いの参入を認めていくことが必要です。
農業の場合、本来は、家族経営という形が望ましいですが、今はそれだけでは現状の生産規模の確保が困難な状況です。しかし、大規模専業農家だけが担い手ということでなく、あらゆるオプションを考えるべきだと思います。
その意味でいくと、多業化と言いますか、法人みたいなものも想定しなければならないし、最初から完成形の経営ではなく、半農半Xとか、時間単位のアルバイトのような形態とか、現場ではいろいろと創意工夫をしています。農業の場合には、そうした形態をうまく使っていくと、それによって技術の習得、一種のトレーニングを積み重ねるような形でだんだん地域社会といい関係性を築くことができ、新規参入にもつながっていく可能性があると思います。
人材育成の場合、こうあらねばならないというふうに決めつけをしないで、基本は現場に任せることが大事です。そういう意味では、地域政策の観点が重要ではないかと思います。地域で政策を企画立案でき、そこに人が入っていけるような環境を国はつくるべきだというのが私の考えです。
セーフティーネットで再生産
農業と工業とでは需給と価格の関係が大きく違います。工業は需要に合わせて生産することが容易ですし、仮に事後的に需要が変化しても必要なコストを積み上げた価格水準を実現し得るように供給を弾力的に変動させることができます。
しかし農業は生きている動植物を養育することが基本なので生産量を自由に変動させることはできません。その結果、需要と生産が一致しないことが常態となり、需給が均衡するように価格が大きく変動することになります。
とくに需要を少しでも上回る生産が行われると価格は大幅に下落することになります。しかも農産物の需要は胃袋の大きさに影響されますので、工業製品と比べて所得が伸びても需要はそれほど伸びません。その結果、価格の下落が起こりやすく、農家の経営は赤字になりやすいといえます。
したがって、農家の経営を再生産ができるようにしていかなければならない。私は、名称は直接支払いでも、所得補償でもいいから、生産コストに相当する水準の価格を上限として、市場価格との差額を埋めるものがよいと思っています。
防衛費などに予算を費やすのでなく、財政負担で再生産を維持する政策への転換が必要です。結局、今の政権にはそれが期待できないので、政権交代が必要でしょう。
(おわり)

